ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「相変わらず自由すね、ここのコンビニは、ちょっと硯さんのこと店長買い被りすぎじゃありません」
「強盗被害んとき包丁握って遊びましょからのそのまま逃げようとした犯人半殺しにした案件からおれのことびびり倒してるみたいで、何もしないし、おれちゃんとしてんですけどね、だって正当な理由でしこたま人間殴れんのなんかそうそうないでしょ、同じ立場ならそうするでしょ?」
「普通の人間は包丁突きつけられたらお金差し出すんですよ」
「ヘーソウナンダ」
それは初耳、って印鑑を押して、私の方に来て手でよこせの仕草をしてから適当に投げたらトラックのおじさんに硯くんは飲む? ってビールの缶を掲げた。
犯罪を鼓舞するコンビニ店員なんて聞いたことないよ、硯くん。
「麦茶をください、麦茶を」
「遅くまでごくろーさまです」
「おじさんばいばいきーん」
「君はもうちょっと隠れようとかしようね」
二人とも遅くまでご苦労さまです、って帽子をあげて出て行く本日二缶目のモンスターエンジンをキメながら戻ってきたら硯くんに頭を打たれた。いってえ。
時計を見たら、朝の4時を回っていた。
まだ空は暗いけど、この時間、業者の人を皮切りにそろそろ世界が動き出す。
「今回の、ハッシュタグ拡散事件に名前つけて、硯くん」
「もうついてるくない?」
「あたし、学校に居場所ないんだよ。頑張るけど、頑張るけどさ、死にたくなったり、もー無理ってなったら止めてね、助けてね。そんで、ピンチの時には駆けつけてね」
「めんどくさいからやだ」
「硯くんだって悪いやつじゃん。正当に人はっ倒したいんでしょ、だったらそこに本件はうってつけだと思いませんか」
「ウンソウダネ」
「エロ本陳列させながら気もそぞろに言うなよな」
ねえ、って横まで踏み込んでその白い腕を掴んだら、今日はワンレン黒髪カラコン? みたいなきれいな目をした硯くんが、あたしを見下ろして薄い唇を結んで、解いた。
「じゃ、轟木 鳴。死にたくなったらおれのこと呼びつけてね」