ビッチは夜を蹴り飛ばす。
  


 掬い上げるように下から柔く胸を揉まれて、ぁ、と声を漏らしたら抱きつくみたいに上にいた硯くんの落ち着いた呼吸が聞こえた。

 それだけでどうにかなっちゃいそうなのに、心底愛おしいみたいに体のひとつひとつを丁寧に確かめられて、その素手のぬるさや細い指や白い手が、灰色の空間で浮き彫りになって感覚を湧き起こす。

 硯くんのことだから無理やりだす? とか言うと思ってた。ちょっと前ならそうだったかもね。でもそうしなかったんだ、なんで? ちょっと前ならって思うのも、なんで? 色んなハテナが行き交うのに、感覚だけは鮮明で、息が上がって、触れられてるだけで情け無い声が上がる。



 見えないように隠した上着の下、あたしの足の間にする、と潜り込んできた手が動いてる。キスしながら、入り口辺りを柔く撫でていた指の腹が濡れた音に絡んで潜り込んで声が漏れる。


「———…入ってんのわかる?」

「、ぅ、ん」
「鍵探す」
「硯くん」
「なに」

「………もっ、と、…して」

 きすしたい、と潤んだ瞳で乞うたら、仕方ないみたいに冷たい目で見下ろされた。啄んで離す、みたいなのを何度か繰り返し、その度にどんどん加速する手や響く濡れた音が鮮明になるのに恥ずかしいのにどうでもいい。

 で、そろそろ掴めない? って訊こうとしたあたりだ。


「…口でする方が早いか」

「え、? っ」

 する、と足の間に手が滑り、間に硯くんの、硯くんの顔が近づいていくのを感じて待って、と呼びかける。必死で食い止めるのにまたキスで押し倒されて、頬を撫でた手を追いかけようとしたら今まで手でされてたあたりに吐息を感じてひ、と声が漏れる。


「、…ゃ…っ、まっ、て」

「時間ないから我慢して」
「ぁ…ぅ、…っは、」
「…痛い?」
「………たく、なぃ」

「……気持ちいい?」

「んっ…ゃ、あっ…うぁ、すずりくん、」


 ぬる、とさっきまで多分唇を犯していた熱が絶対触れちゃいけない場所を舐めて弄ってるのを感じて体が弓なりに反る。さっきとは比べものにならない快楽に腰がひとりでに揺れて、馬鹿みたいに喘いでたら、絶対辿り着いちゃいけない場所みたいなのにどんどん上り詰めていって、


 それからぱちん、と光が弾けた。


< 70 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop