ビッチは夜を蹴り飛ばす。
09.全部全部全部全部全部全部全部全部全部壊してやるよ
お酒を抜くのと同じ要領で薬を抜いたら、体は想像以上に軽くなった。暑いのは解けたし、でも夏だから寒くはないけど建物の中が冷たくてくしゃみをしたのを硯くんは見逃さず、自分の上着を貸してくれた。
あんまり見てなかったけど今日は派手なスカーフ柄のシャツを着ていた。これ硯くんじゃなきゃ似合わないような気がする、と薬とはまた違う効果で冷めない熱を持て余してぽわぽわしていたら、その背中を追う道すがら、ふと硯くんが立ち止まる。
「う、え? どしたの、硯くん」
「…簡単すぎないか」
「え?」
「だってこれだとおれがただ鳴にクン」
がばりと咄嗟に両手で口を塞ぐ。赤面して言うなの意で睨んで離したら目だけ見下ろしていた硯くんがぱちぱち、と瞬きした。
「…しただけで終わってるじゃん」
「それだけでもすごいことだよ」
「…そうかな、それくらい簡単にするって予想つきそうなもんだけど」
集会に潜り込んでひとりで暴れたおれの姿見てるなら尚更、と警戒する硯くんに吹っ切れたように階段に差し掛かる。
「警戒し過ぎだよ硯くんは! 何もないうちに先を急ごう、あいつらどの段階で仕掛けてくるかわからない、爆発も今この瞬間だって」
まで言った瞬間クン、と足に何かが引っかかる。
テグスみたいなものが見え、見上げた廊下の向こうから光がすごい速さで駆け抜けてくるのがわか、
「鳴!!」
ド、と鈍い音がした。
瓦礫の散らばる床に突き飛ばされ、一瞬目が眩んだ。いた、と腕に瓦礫の破片が刺さるのを感じ、でも目を開けた先の景色を見る。
硯くんが、立っていた。
お腹に、
ボウガンの矢が刺さった状態で。
「………うわマジか」
「硯くん!!!!!!!!」
膝から崩れ落ちて倒れる硯くんを抱き起こす。あたしに上着を貸して薄着だったから矢も奥まで刺さってるみたいで触れただけで手が血に濡れて、みるみるうちに赤が広がっていって止血するように手を当てる。
仕込んでたんだ。読まれてた。わざとそうした。硯くんがここまでくること予測されてた。だからわざとボウガンの罠を仕掛けて、そこまで一気に理解したら怒りに震えて溢れる血を前に逆上する。
「なんで…なんで!? なんでこんなことすんの!?」
「…鳴」
「あたしなんかみんなに恨み買うようなことしたっ!?」
「鳴!」
聞いたことないような声で吠えられてハッとして目が合う。涙で濁る視界で、腕の中の温もりがか細い息で声を漏らす。
「…あんま叫ぶのやめて、傷に響く」
お酒を抜くのと同じ要領で薬を抜いたら、体は想像以上に軽くなった。暑いのは解けたし、でも夏だから寒くはないけど建物の中が冷たくてくしゃみをしたのを硯くんは見逃さず、自分の上着を貸してくれた。
あんまり見てなかったけど今日は派手なスカーフ柄のシャツを着ていた。これ硯くんじゃなきゃ似合わないような気がする、と薬とはまた違う効果で冷めない熱を持て余してぽわぽわしていたら、その背中を追う道すがら、ふと硯くんが立ち止まる。
「う、え? どしたの、硯くん」
「…簡単すぎないか」
「え?」
「だってこれだとおれがただ鳴にクン」
がばりと咄嗟に両手で口を塞ぐ。赤面して言うなの意で睨んで離したら目だけ見下ろしていた硯くんがぱちぱち、と瞬きした。
「…しただけで終わってるじゃん」
「それだけでもすごいことだよ」
「…そうかな、それくらい簡単にするって予想つきそうなもんだけど」
集会に潜り込んでひとりで暴れたおれの姿見てるなら尚更、と警戒する硯くんに吹っ切れたように階段に差し掛かる。
「警戒し過ぎだよ硯くんは! 何もないうちに先を急ごう、あいつらどの段階で仕掛けてくるかわからない、爆発も今この瞬間だって」
まで言った瞬間クン、と足に何かが引っかかる。
テグスみたいなものが見え、見上げた廊下の向こうから光がすごい速さで駆け抜けてくるのがわか、
「鳴!!」
ド、と鈍い音がした。
瓦礫の散らばる床に突き飛ばされ、一瞬目が眩んだ。いた、と腕に瓦礫の破片が刺さるのを感じ、でも目を開けた先の景色を見る。
硯くんが、立っていた。
お腹に、
ボウガンの矢が刺さった状態で。
「………うわマジか」
「硯くん!!!!!!!!」
膝から崩れ落ちて倒れる硯くんを抱き起こす。あたしに上着を貸して薄着だったから矢も奥まで刺さってるみたいで触れただけで手が血に濡れて、みるみるうちに赤が広がっていって止血するように手を当てる。
仕込んでたんだ。読まれてた。わざとそうした。硯くんがここまでくること予測されてた。だからわざとボウガンの罠を仕掛けて、そこまで一気に理解したら怒りに震えて溢れる血を前に逆上する。
「なんで…なんで!? なんでこんなことすんの!?」
「…鳴」
「あたしなんかみんなに恨み買うようなことしたっ!?」
「鳴!」
聞いたことないような声で吠えられてハッとして目が合う。涙で濁る視界で、腕の中の温もりがか細い息で声を漏らす。
「…あんま叫ぶのやめて、傷に響く」