ビッチは夜を蹴り飛ばす。
真昼間、夏の終わり、明日から始まるはずの学校、あたしはまだ三日行けない、学校。行くつもりのない学校。
もう帰らないつもりでリュックにたくさんを詰めて、そこにあるのはガラクタばっかだったけど、まあ、なんとかなるだろう。
教科書なんかをゴミ袋で縛って服を詰めて、それを背負って廊下を抜けたら「鳴、」とあたしを呼ぶ声がした。
後ろ足で戻り確認する。畳の部屋でボサついた髪のまま煙草を吸って背を向ける、痩けた母の声だった。
「ごめんね
うまく愛してあげられなくて」
返事はせずに、家を出た。
「病み上がりなのに悪いね、シフト入ってもらっちゃって」
しかも昼間にね、と眉を下げて笑う小太りの店長に、検品表にチェックを入れながら応える。
「どんだけ人足らないんですか。退院三日後にシフト入ってって、ブラック企業で訴えてやる」
「まったまた」
やめてよもー、と手を下ろす仕草をする来月のシフトには、もう自分の名前がない。たぶん今日が最後で、それも夜間じゃなくて昼間か、業者の人に挨拶出来なかったな、と思いつつも職務を全うしていたら、バックヤードに行った店長がゆっくりと戻ってきた。
「硯くん」
「はい」
「これを」
す、と差し出されたそれを見る。ヨレた宝くじの紙切れに、クリップで明細書が挟んである。
「7億ある」
「は?」
「夢の片道切符。きみにあげる」
手を取って握らされ、冗談でしょ、と問うのに店長は朗らかに笑っているだけだった。くだらない冗談は言っても、こういうたちの悪い嘘はつかない人だ。