ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「硯くんあのね、きみは僕の若い頃にすごく似てるよ」
「…」
「あ、いや顔とかはね全然似てないんだけど境遇が、こう見えても実はやんちゃっ子だったんだよ? 僕。…だからあの日、深夜のコンビニの前で座り込む硯くんを見つけたとき、まるで昔の自分を見ているみたいでさ。
家にも外にも居場所がなくて、希望を求めて夜に飛び出したこの僕と。その結果がこれだけどね」
コンビニの制服を引っ張り肩をすくめて笑う仕草に、目を伏せてまた店長を見る。
「だからほっとけなくて身元もよくわかんないきみを雇って今日までそばにおいてみた。少し怖かったけどね、案の定だったよ、僕はこう見えて人を見る目に自信があるんだ。僕の見込み通り今日に至るまで本当に、きみは見込み以上の働きをしてくれた。だからこれはほんのお礼」
く、と力を込められて、でもその手をゆっくり押し返す。
「…受け取れません。店長、あなたはおれの恩人です。あの日あなたに手を差し伸べられなかったら自分は人として落ちるとこまで落ちていた。それを救ってくれたのは」
「そう思うなら尚更だよ。
硯くん、きみは僕が果たせなかった未来だ。希望だ。頼むよ、夢に挫かれた中年の願い叶えると思って」
受け取って、と今度は強く握らされて、その目が力強くて抵抗出来なかった。やりたいことがあるんでしょと笑われて、見透かされたことにはっとして、でもそれに対しては然程驚くことはない。
このひとの見る目があることを評価したら自分を買い被るようで違うけど、お眼鏡に適った、それはこの先誰にも豪語出来てきっと称賛に値する。
「…店長、なんかあったら呼んでください。地球の裏側からでも駆けつけます」
「おっ。それは心強いなぁ」
あーあ、でもまたこれで宝くじ1からかぁ、とぼやくから返しますよと言ったら早く収めてと怒られた。一等当たったことには心残りあるくせに、人が良すぎる、ばかなひとだ。
「きみの健闘を祈ってる」
またね、と朗らかに微笑む姿に深く、頭を下げた。