ビッチは夜を蹴り飛ばす。
突如申し込まれた決闘にちょっと勘太、とナカジが言うけど既に食べ終わった硯くんはそれを手で制して席を立ちちびっ子に向かっていった。
ああ、正義はこうして終わりを遂げるのか、儚いな、と遠目に勘太くんのご冥福を祈りつつく、とお茶を飲む。
そしてあたしの隣に、ナカジは椅子を引いて腰掛けた。
「見たよニュース。
うちの学校建造物損壊で当面の間休校だって」
「…」
「トドがやったの?」
答えないで笑ったら、ナカジは少しだけ目を見開いて、それからちょっと複雑そうな顔をした。
「…私のため?」
「ナカジのためじゃないよ。
あたしがあたしであるためにやった」
これはもし警察に身元が割れてあたしか硯くんのどちらかもしくは両方が捕まって、警察に理由を聞かれた時に備えて用意しておいた答えだった。
だから洗練されていたし、そのどの一つも誰にも損わせないと思っていたけれど、ナカジはやっぱり前にあたしが知っていることの話をした時みたいに目にたくさんの星を散りばめて、少し身震いしてから口をチャックで閉じたみたいに皺を寄せてあたしに抱き付いた。
「私、後悔してない。トドに出逢えてよかった」
大好きだよ、と言われて、その時ぽろりと涙が落ちた。
廊下で声をかけられた時答えなければ、笑わなければ、出会わなければよかったんじゃないかってずっと後悔してたから、ナカジがあたしに出逢ったことをそう言ってくれた瞬間、心底救われてうえぇん、と泣いてしまった。
いいこいいこ、って抱き締めてくれるこんなにあったかい心を持ってるナカジに、これからはたくさんの光に満ちた明日が待ってるといい。辛いことは全部この青春に閉じ込めたから、残りこれからの人生はきっと頭おかしくなるくらい楽しいばっかで、ずっとこの笑顔が壊されなければいい。
ほか全部あたしが引き受けるからさ、神さま頼むよ、お願いねって。
ただそんなことを、切に願った。
ぐす、って泣き噦っていると「くそー」と向こうから声がする。
「—————ごめんねーちゃんこいつべらぼうに強ぇや…我が人生に一片の悔いなし」
「あっ! 硯くん子どもにも容赦ない!」
「だって本気でかかってくるから」
「あれー女二人してなんで抱きしめあってんのー?」
足首を掴まれて逆さまにさせられてるというのにあどけない様子で問いかけてくる勘太くんがおかしくて笑った。ナカジも鼻をすすって笑ったから、
たぶんもう、あたしたちは大丈夫だ。