ビッチは夜を蹴り飛ばす。
*12.どうにもならないこっちの事情と硯くんのあっち事情
Day.1
膝を二度叩いて空を指差した、それってつまり、そういうこと。
それから、硯くんはちょっとへん。
ひとまず期間限定ねってでっちあげたハワイのあたしたちのアジトはなかなか住み心地が良く風通しが良くそんで窓から右斜め前方向に海が見渡せる。
朝方までテレビゲームに没頭して寝て起きた夕方16時、寝巻きのタンクトップとショーパンにパーカーを羽織った格好であぐらをかいてぼーっとしていたら、幾何学柄のレトロシャツを着た硯くんがぱち、と時計を付ける音がした。
「? 硯くんどっかいくの」
「うん」
「どこ?」
「風俗」
「!?」
仰天するあたしも構わずじゃ、って一瞥もくれずに出掛けようとするから光の速さで立ち上がってずさーって廊下で硯くんの前に出る。
「ダメ!!!!!!!!!!」
「はぁ?」
「はぁ? じゃない! 何その反応!」
「だっておれもう正常に戻ったからそれなりに使わないと腐る」
「だっ、だっ、だからって…!」
硯くんのばっちり外出仕様になった身なりを見上げると余計やるせなくてギリギリする。かっこいいんだよ、かっこいいんだよ硯くんは。自覚あるのかほんとに。肌綺麗だしパーツ整ってるし寝起き一発目でも おはよう、ってリビングに出てきたのがただの硯くんだった時こっちは隙ゼロの格の違いに驚いたのに、
それなのに本気出して男前にしてあたし置いて行っちゃうなんておかしいそんなの絶対変。
そんで、そんでそれからこんなこと言い出すようになったのは、あえて言葉にした訳じゃないから知らないけど、口に出すのは恥ずかしいけど思い当たる節はあれしかない。
「硯くんがすたっ、スタンドしたのって理由あたしなんじゃないの!?」
「別にそうとは限らない」
「そんな…!」
す、と横をすり抜けようとするのが嫌で阻むように道を塞いだらばんと強く壁を叩かれて飛び上がる。
「じゃなに 鳴責任取ってくれんの?」
「ぇ、ぅ、」
「止めるってことはその覚悟あるって思っていいんだ」
「ぁ」
まちがえた、とその冷たい目を見上げて思ってももう、遅い。