ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「す、ずりくん」
「はい」
「すーずりくん」
背中でぐいぐいしてかまってを繰り出すあたしは、はたから見たら多分相当ヤバかったと思う。うざいに違いない。あたしが男ならめちゃくちゃ無理。でも愛おしさをとどめておける自信がなかった。顔が見たくて見えるように向かいに回って、地べたのテーブルであぐらをかいてパソコンしてる硯くんを正面から見て絵になるな、って思いつつふふん、と笑ってみる。
でも構ってくんないからこれワン誘惑じゃね? 誘惑案件じゃね? と思って閃いて、誘惑しようとする。てかゆーわくってなにしたらいいんだろ。わからん。わからん、ので。
「………硯くん」
「なに」
「溜まってない?」
「情婦かお前は」
ど直球で言ったらぴしゃりとへし折られてしまった。
で、居た堪れなくて口を閉じてう〜って眉間に皺を寄せてうるうるしていたら(現役JK時代にしていたのちのチワワ攻撃である)きもい、って笑われた。おいきもいってなんだ。あんたが選んだ女やぞ。
「…何なの鳴さっきから。顔芸してんの」
「ちがうわ!」
「じゃなに」
「なんもない!」
「思ってることあんなら口で言わないとおれ拾わないよわざわざ」
めんどくさい、って素っ気なくいう言葉があんまりいつも通りだから本当にそうなのかと思ってちょっと落ちた。しゅん、てするあたしが口を開いて閉じて、また口を開いたら、硯くんがパソコンの四角い光を映しながらあたしを射る。
「………した、い」
で、真っ赤になってか細くそう言ったのに、はって鼻で笑われた。ころす。
「そんなハマった?」
「はまっ…、うん」
良かった、って言ったら、返事がなくなった。ビッチって思われたかな。てかこれお母さんと同じ道辿ってるんじゃ、とちょっと青ざめて、でも目の前にいる愛おしさを逃したくはないから、外面なんかもう引き裂いてやろうとする。
「………硯くんはしたくないの?」
「したいよ」
「えっ」
「あと二行で終わるから待って」
まさかの返事が来てギョッとする。え、え、え、と動揺してわたわたしてそういや寝起きだったとか頭ボサボサだとか服着替えた方が、え、脱ぐのに? とか訳わからないこと考えてそわそわしてたらぱた、とパソコンを閉じる音がしてわーってなる。