桜に降る雪
春の初めに、雪が降った。
桜の花びらに積もる雪を、私は彼と2人で見た。
もともとお花見をしようという約束で会ったのに、私はマフラーを巻き、両手をポケットの中に突っ込んで使い捨てのカイロを握っていた。
「手が寒いんだけど」
そう言ったのは彼の方だった。
恥ずかしがり屋でめったに人前で手を繋がない彼の精一杯の言い訳に、私は「はいはい」と笑って差し出された彼の手を握った。
彼の長い指がひんやりとしていた事を思い出す。
東京駅のすぐそばの駅を降たときには、彼のスニーカーのつま先がすっかり濡れてしまっていて、その事に対して彼は不満げにしていたけれど、桜を見上げる横顔は嬉しそうだった。
いつもならきっと人で溢れているであそう川沿いの道には、二人でひとつの傘をさした私と彼以外、誰もいなかった。
雪はますます強さを増してきたけれど、繋いだ手は暖かく、傘の中にいるとまるでかまくらにでも入っているみたいだ。
「さっきから何食べてるの?」
彼の頬はさっきからモゴモゴと動いている。
「キャンディ。いちごミルクの」
「ずるい」
「いる?」
ちょうだい、と言った私の声はまるでこどもみたい。
彼は少しだけ周りに目をやって、それからふわりと身をかがめると私の唇に触れた。
唇から甘い香りがしたと思ったときには、いちごミルクのキャンディはもう私の口の中にあった。
彼の温もりと共に。
三月に東京に雪が降った日。
桜の花びらに雪が積もった日のこと。
きっと何年たっても思い出す。
春がくるたびに。
桜の花びらに積もる雪を、私は彼と2人で見た。
もともとお花見をしようという約束で会ったのに、私はマフラーを巻き、両手をポケットの中に突っ込んで使い捨てのカイロを握っていた。
「手が寒いんだけど」
そう言ったのは彼の方だった。
恥ずかしがり屋でめったに人前で手を繋がない彼の精一杯の言い訳に、私は「はいはい」と笑って差し出された彼の手を握った。
彼の長い指がひんやりとしていた事を思い出す。
東京駅のすぐそばの駅を降たときには、彼のスニーカーのつま先がすっかり濡れてしまっていて、その事に対して彼は不満げにしていたけれど、桜を見上げる横顔は嬉しそうだった。
いつもならきっと人で溢れているであそう川沿いの道には、二人でひとつの傘をさした私と彼以外、誰もいなかった。
雪はますます強さを増してきたけれど、繋いだ手は暖かく、傘の中にいるとまるでかまくらにでも入っているみたいだ。
「さっきから何食べてるの?」
彼の頬はさっきからモゴモゴと動いている。
「キャンディ。いちごミルクの」
「ずるい」
「いる?」
ちょうだい、と言った私の声はまるでこどもみたい。
彼は少しだけ周りに目をやって、それからふわりと身をかがめると私の唇に触れた。
唇から甘い香りがしたと思ったときには、いちごミルクのキャンディはもう私の口の中にあった。
彼の温もりと共に。
三月に東京に雪が降った日。
桜の花びらに雪が積もった日のこと。
きっと何年たっても思い出す。
春がくるたびに。