裏切り姫と恋の病







それから数十分後。


朝でも夜でも関係なしに、活気溢れる街に着いた。



「ありがとう」


被っていたヘルメットを脱いだとき、しばらく切っていない長い黒髪が(なび)く。

お礼を言いながら両手でヘルメットを返すと、金髪君は口を開く。



「希乃香ちゃん、迎えにいくから帰る時呼んでよ。
 別に呼ぶなら唯でもいいし」



その名前を聞いたとき、ーーツキン。と胸が傷んだ。


「……うん、ありがとう。」


「じゃあ俺行くね。
 あんまり遅くなると、皆心配するから。
 用事ならできるだけ早く済ませてね」


「うん」




心配してくれる金髪君の言葉に胸がザワついてしょうがない。


バイクを動かし、走り去っていくテールランプ。


バイクが見えなくなるまで、ずっと見ていた。


本当は行かないでって、言いたい。


一人にしないでって。



だけどもう、戻れない。


唯の隣には花音がいて。

花音の隣には唯がいる。


そんな大好きな二人が、大好きだからこそ愛し合っている二人の姿を見るのが……とても辛いの。



私は……もう、あの倉庫には戻らない。



嫉妬で自分が自分じゃなくなる前に、私は自力でこの思いに(ふた)をする。



「唯……助けてくれて、ありがとう」


街中の明かりがボヤけて見えたのは、涙が込み上げてきたせいかな。


泣いてる自分を確認するのが怖くて。


私は何度も瞬きし、歩き出した。











< 32 / 82 >

この作品をシェア

pagetop