裏切り姫と恋の病
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それから数十分後。
朝でも夜でも関係なしに、活気溢れる街に着いた。
「ありがとう」
被っていたヘルメットを脱いだとき、しばらく切っていない長い黒髪が靡く。
お礼を言いながら両手でヘルメットを返すと、金髪君は口を開く。
「希乃香ちゃん、迎えにいくから帰る時呼んでよ。
別に呼ぶなら唯でもいいし」
その名前を聞いたとき、ーーツキン。と胸が傷んだ。
「……うん、ありがとう。」
「じゃあ俺行くね。
あんまり遅くなると、皆心配するから。
用事ならできるだけ早く済ませてね」
「うん」
心配してくれる金髪君の言葉に胸がザワついてしょうがない。
バイクを動かし、走り去っていくテールランプ。
バイクが見えなくなるまで、ずっと見ていた。
本当は行かないでって、言いたい。
一人にしないでって。
だけどもう、戻れない。
唯の隣には花音がいて。
花音の隣には唯がいる。
そんな大好きな二人が、大好きだからこそ愛し合っている二人の姿を見るのが……とても辛いの。
私は……もう、あの倉庫には戻らない。
嫉妬で自分が自分じゃなくなる前に、私は自力でこの思いに蓋をする。
「唯……助けてくれて、ありがとう」
街中の明かりがボヤけて見えたのは、涙が込み上げてきたせいかな。
泣いてる自分を確認するのが怖くて。
私は何度も瞬きし、歩き出した。