裏切り姫と恋の病
暗くてよく見えない男の顔。
だけど口角をあげたことだけは分かる。
っと、その時。
ジジジッ……と、点滅を繰り返していた古い街灯がバチッと光を完全にし、急に目の前が明るくなる。
ーードクンッ。
心臓が響いたのを、体の奥で感じる。
目の前にいる男。
その男の顔が、あまりにも綺麗で……一瞬、息の仕方を忘れてしまった。
透明感あふれるグレーアッシュ色の、センターパートショートな髪型。
眉間にシワの寄った眉は、整えられていて。
目は細いわけではないのに、鋭く、人の心を惑わせてしまいそうなほど色気がある。
鼻筋は憧れるくらい通っていて、口は大きくも小さくもなく、だけど柔らかそう。
唇の隙間から覗いた歯は、人をも喰らいそうな綺麗に尖った八重歯だ。
耳には何個かピアスが空いている。
「あなた……一体何者なの?」
イケメンなら、街を歩けばどこへだっている。
けど、この男は違う。
この男は、今まで見た誰よりも。
綺麗で……そして何を考えているのか分からない、不思議な雰囲気を持っていた。