裏切り姫と恋の病






「なんで……。
 なんで葛西さんが、花音のこと知ってるんですか?」


いや、冷静に考えてみたら
私のことだって知ってたんだ。


花音のことを知っていてもおかしくはない……。


でも、さっきから喉が渇いてしょうがないから。
動揺が、上手く隠せない。




「おっと、この話の続きは後でだ。
 そろそろ行くぞ」


ーーピリッと、また葛西さんの雰囲気が変わった。


この人はいくつ、雰囲気を持っているんだろう。


そして本心はどこに、隠してるんだろう。



公園から出て、少し離れたところにある駐車場に
派手な赤いバイクが停まっている。


葛西さんはそのバイクに跨がって、私の胸元に、軽くヘルメットを押し付けた。



「後ろ、乗れ」


「へっ……?あっ、はい」


言われた通り、バイクの後ろに乗ると。

葛西さんが「しっかり捕まってねえと、振り落とされても知らねえぞ」と言い、バイクのエンジンをかけ、走り出した。



暗闇を突き抜けた先に、ネオン街の光が待ち受けていた。


私は葛西さんの後ろで、その光を浴びながら。


どうか今だけは。

辛いことや苦しいことから逃れたいと。


なにも考えないように、目を瞑った。






< 49 / 82 >

この作品をシェア

pagetop