裏切り姫と恋の病





じゃあ、あの男は悪いことしてるのに
一言も私に謝らないってことは、人間じゃないってこと……?


私の過去なんかなにも知らない葛西さんに、そう聞きたくなった。



「……っ、葛西さん、何してるんですか」


急に右膝にヒヤッと冷たい何かが触れ、傷口に染みる。


鼻腔(びくう)に広がる、消毒液の匂い。

その上に絆創膏(ばんそうこ)を貼られ、擦り傷が隠れる。



「まあ、なんだ。
 やっぱ傷跡なんか少ない方がいいに決まってるだろ」


「……」


「もっと体、大事にしろよ希乃香ちゃん」



葛西さんの絆創膏から離れた指先が、あまりにも優しくて。


唯に助けられた、あの日を思い出す。


「……っ」


もう、なにもない。


親も、友達も、仲間も、……好きな人だって。


なにもかも……いなくなってしまった。


人なんかもう信じたくないはずなのに。



「こんどは泣くとか、扱い困るな~希乃香ちゃん」



優しくされる度、嬉しくて。


変に期待してしまう自分がいる。


……バカだよね、ほんと。




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