裏切り姫と恋の病
「悪いが、ここまでしか送れねぇな。
こっから四季の倉庫まで歩いて帰れるか?」
見渡せば草木しかない場所で、走っていたバイクを止める春が言う。
昨日の夜のことを思い出しながら、深く頷く。
昼に雰囲気を変えようとウズウズしている太陽の真下で、元の場所に帰してくれる春に、不思議と胸が熱くなる。
……変なの。
助けてくれたり、送ってくれたり。
昨日から春にはお世話になりっぱなしだ。
春にヘルメットを返して、跨がっていたバイクからおりる。
「……っと。
そーいや、希乃ちゃん。携帯持ってる?」
「……やめてよその呼び方、そんな可愛いあだ名で呼ばれるキャラでもないし」
「昨日泣いてた女が言う言葉かねぇ……。
女に弱ってるところ見せられて、可愛くない!って思わない男はいない……!きっとそうに違いない!!」
「今そういう事言ってるんじゃないけど……。
もうどうでもいいや、好きに呼んで……」