裏切り姫と恋の病
蛇のように鋭い目付きで睨む唯に、分かりやすく体は怯える。
好きな人を怒らせた、その事だけが今の私の頭を悩ませる。
でも、なんとか自我を保とうと震える指先を丸めると、握りしめた春のジャケットから微かに香る香水の匂いに少しだけ不安は拭われた。
今は唯と話してる場合じゃない。
花音はどうして……唯とキスしていたのか。
彼女の答え次第で、私はもう四季から抜ける。
「花音、話があるの」
目線を唯から花音に渡す。
花音はひどく怯えた表情で、唯の服の裾を掴んだ。
唯は花音の恐怖を少しでも落ち着かせようと、さっきよりも目を細め、無言で私に圧をかけるけど、私の目にはもう花音しか映らない。
……唯は、私じゃなくて花音を選ぶんだ。
私よりも花音を守ろうとする。
結局私は、"普通"の子には勝てない。
「話そう、花音」
自分でも驚くほど冷静な声で花音に一歩近づけば、唯に警戒される。
けど、そんなことはもうどうでもよかった。
私は花音を守る唯の手を軽く払って、彼女の手首を握る。
「花音も、私に話したいこと……あるでしょ」