ボーダーライン。Neo【下】
社長は姪の茜を見て、フッと頬を緩めた。
「茜の言葉を借りれば、今更反対する意味も無い、そういう事だ」
「……けど、伯父さん。さっき言ってた“大人の事情”は」
「良いんだ良いんだ、アレは。単なる俺のこだわりだから」
「……ふぅん? そっか」
茜はどこか腑に落ちない様子だったが、一つ首を傾げてから頷いた。
「でもな、檜? これだけは約束しろ」
「あ、はい」
「今後何があっても引退だけは考えるな。俺の会社で骨を埋める、その覚悟はちゃんとしておけ」
「……っ、」
途端に胸が熱くなった。
骨の髄まで染み渡る。社長の台詞に、僕はただただ感銘を受けていた。
高二の十二月、三高 誉の記事を初めて雑誌で目にし、心臓が震えた事を思い出す。
“世界が変わるその瞬間を見せてやる”
彼のこの言葉に心酔し、カッコいいと思った。
「はい。勿論です」
引退なんてとんでもない。どこまでもついて行きたくなる社長だ。
ありがとうございます、と深く頭を下げ、僕は茜と共に社長室を出た。
「……なんか。茜には随分助けられたよな?」
彼女が先に来室し、口利きしてくれたのが大きいと思っていた。