ボーダーライン。Neo【下】
◇ ♀
「急に呼び出してごめん」
「ううん」
言いながら、あたしは彼の向かいの椅子に座った。
実家から程なく近いカフェに来ていた。
「……てか。慎ちゃん、あたしの番号、残しててくれたんだ?」
「あ、うん。サチも。番号変えてなくて良かった」
檜の記者会見から二週間が過ぎていた。
あの日、出し抜けに掛かってきた電話の相手は慎ちゃんだった。
慎ちゃんに会うのは、部屋を追い出されて以来なので、数ヶ月ぶりになる。
「サチには、ずっと謝りたいと思ってた」
丁度その時、注文したアイスコーヒーが運ばれ、慎ちゃんはストローの紙を指で千切った。
八月二週目の平日。今週末はもうお盆を迎える。
「謝るって、何を?」
少しして、あたしの手元にも頼んだアイスカフェラテが置かれ、あたしは店員さんに会釈した。
「あたしを部屋から追い出した事? それとも、荷物を処分した事?」
ーーなんて。ちょっとだけ意地悪言ってみたりして?
「全部だよ」
慎ちゃんはあたしを見つめ、辛そうに眉を寄せた。
「暴言を吐いた事も、暴力をふるった事も、裸足で部屋から追い出した事も、荷物を捨てた事も、全部……っ」
「慎ちゃ、」
「全部、本当に申し訳無かった……っ」
彼は店内に響き渡りそうな声で謝罪し、額をテーブルにつけた。