ボーダーライン。Neo【下】
きっと幸子が昔出した料理の反応を覚えていてくれたんだ。
そう思って右を向くと、幸子が得意げに微笑んだ。
いただきます、と手を合わせるが、正面に幸子の母親が座っていると思うと、緊張してうまく箸が進まない。
「ねぇ、檜。このシュウマイ、あたしが作ったんだよ?」
「あ、そうなんだ。じゃあ貰おうかな」
「取ってあげるね?」
僕の空気を察し、幸子が小皿に入れてくれる。幸子の実家で僕は完全にアウェーな存在なので、こういう気配りが嬉しい。
「檜くんは……今日は車だったかな?」
ビール瓶を片手に、彼女の父親に話し掛けられた。自然と背筋が伸びる。
「あ、はい。駅前に停めていまして」
「そうかぁ」
しょげる父親に、「お父さんお醤油取って」と母親が頼んでいる。
特にこれといった会話もないまま、食事が終わり、僕は考えていた。
ーーしまったな。食事中に言うべきだったかな?
幸子さんと結婚させて下さい、と切り出すタイミングが掴めず、ごちそうさまと手を合わせていた。
「先日の記者会見、拝見致しましたよ?」
ーーえ、あ。
急に母親から話を振られ、居住まいを正す。
「あ、本当ですか。恐縮です」
母親は、ふふっと笑みをもらした。