ボーダーライン。Neo【下】
◇ ♀
稚拙な文章で綴られた日記帳をパタンと閉じた。
棚の上に置かれた写真立てを見つめ、じわりと胸が熱くなる。
ふと、テレビから流れる音声に意識が傾いた。画面を満たす彼を見つめ、自然と口角が上がる。
ママ、と娘の愛らしい声が傍より掛かる。
「これ、パパ。パ〜パ〜!」
「そうだね。パパが居るね?」
二年前。あたしは娘を出産した。
結婚式を挙げて数ヶ月後に妊娠が分かり、無事に出産へと至った。
分娩時、産後共に何の問題も無く、健康優良児として生まれた娘に、莉乃《りの》と名付けた。
莉乃はパパに似て瞳の愛らしい美人さんだ。
乳幼児期からパパによく懐いていて、微笑ましくもあり、羨ましくもある。
「パパ、しゅき〜っ」
莉乃は紅葉のような小さな手でディスプレイをパシパシ叩き、あどけない笑みを浮かべている。
「ママも。パパが大好きだよ、莉乃ちゃん」
娘と過ごすたわいない日常のワンシーンも、今のあたしの幸せだ。
ーーーピンポーン.
テレビから流れる音声に、インターホンの音が混ざり合う。
「あ。莉乃ちゃん、パパ帰って来たね?」
あたしは娘を抱き抱え、帰宅したばかりの旦那様を出迎えた。
「ただいま」
大好きなムスクの香りと共に、檜の穏やかな笑みがあたしと娘を優しく包み込んだ。
「お帰りなさい」
***FINE***
ご閲覧頂き、ありがとうございました☆沢山の方に読んで頂き、とても嬉しいです(*^^*)
斉川 春妃。