ボーダーライン。Neo【下】
ーー何よ。マゾとかストーカーとか神様とか。
冗談でも無く、本気で言っている彼に、フッと笑いが込み上げた。
「あははっ、何それ。誓っちゃうんだ?
じゃあもう絶対浮気出来ないからね? 浮気したら死刑だからね?」
「良いよ?」
急に檜が伊達眼鏡を外した。そのままジッと見つめられ、心拍数が上がってくる。
檜があたしとの距離を詰めた。彼特有の香りがふわっと舞い上がり、鼻腔をくすぐった。熱い眼差しと絡み合い、頬に吐息がかかる。
ドキドキしながら睫毛を伏せた。目を閉じると、唇に柔らかな感触を押し付けられる。
唇を閉じたままの、優しい口付けだったため、頬に添えられた彼の指先や口腔から伝わる息遣いを感じ、胸がキュンと震えて痛くなる。
こんなキスじゃ物足りない。そんな欲が次第に大きく膨れ上がる。
やがて小さなリップ音を残し、恋焦がれていたキスが終わる。
「俺。幸子がいたら、やっぱり何にもいらないや。芸能界辞めて、働こうかな?」
唇を離すと、熱を帯びた瞳で檜が言った。
「そんなの、無理だよ」
「何で?」
未だに至近距離で、すぐ側に檜の唇が有った。近くで見つめるのが恥ずかしくて、あたしは目を伏せる。
「檜はね。歌を歌ってる時が、一番魅力的でカッコいいから」
「……それって。
……歌ってる時だけ?」