ボーダーライン。Neo【下】


「……マゾだね?」

「そうだよ? 悪いか?」

 ううん、と首を振り、「嬉しい」と続ける。

 目頭がじんわりと熱くなった。檜のひた向きな愛情が嬉しくて、涙で視界が霞み、洟を啜った。

 指先で目の端を拭うと、噴水広場の水しぶきが、来た時と比べて勢いを失くしているように見えた。

 周囲の話し声がふと耳に戻ってくる。

 完全に二人だけの世界で話をしていたみたい。

 まだ日は完全に落ちていないが、影の色が薄くなり、辺りは徐々に暗くなっている。

 今まさに、夜を迎えようとしているこの場所で、ちらほらと帰り支度を始める若者が見えた。

「……なぁ、幸子」

 ん? と隣りの彼に顔を向ける。檜は真剣な顔付きであたしの瞳をジッと見ていた。

「一回しか言わないから。ちゃんと聞いてて?」

 ーーなに?

 あたしは僅かに首を傾げ、コクンと頷いた。

「一度終わりの言葉を口にしといてなんだけど……。やっぱり幸子との恋が俺の全てだと思う。

 幸子のさ。自己嫌悪するところも、時々あまのじゃくで泣き虫なところも、ダークな一面も。俺、相変わらず幸子の全部が好きなんだ。

 もう何回振られても気持ちは変わらない。誰に告白されても、いつも頭に思い浮かぶのは幸子の顔なんだ。

 俺はお前と幸せになりたい。幸子の幸せをもう他人任せにしたくない。

 今持ってる俺の全部で、俺はそのままの幸子を幸せにする。

 だから……。いい加減、俺と結婚しよ?」

 瞬きを忘れ、あたしは檜のプロポーズを聞いていた。

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