ボーダーライン。Neo【下】
「バーカ、人目なんか知った事かーっ!」

 ーーはぁぁ??

 込み上げた涙は当然ピタリと止まってしまう。チラチラと向けられる外国人さんの好奇な視線と笑みを感じ、次第に頬が紅潮する。

 それなのに、檜は完全なる傍若無人。体全体で喜びを表していた。

「どうせなら、プロポーズ記念に写真撮ろう!?」

「分かった、分かったっ、撮るからっ。あんまり大声で叫ばないで??」

 檜はどこまで言っても、ハイテンションで無邪気だった。

 思えば、この無邪気さが本来の彼だ。あたしの前では、いつもこの素を出していたなと、不意に思い出した。

 社会人になって、芸能界の仕事もして、檜はかなり大人びたなぁと思っていたけれど。きっと職業柄、そうせざるを得ないんだ。その証拠に下手だった敬語もかなり上達している。

 檜にとってはここがホームグラウンド。ありのままの自分をさらけ出せる場所なんだ。

 国立美術館を背景に、昔と同じく写真を撮った。ちょうど側を通りかかった通行人を捕まえて、檜はあの頃のようにカメラを渡してお願いしていた。

 帰る頃になって、檜は携帯を片手に、誰かに電話を掛けていた。

「……うん。上手くいったから、今から連れて帰るな?」

 うんうん、と数回相槌を打ち、携帯をポケットに仕舞うとグイとあたしの手を引いた。

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