ボーダーライン。Neo【下】
◇ ♂
幸子を婆ちゃんの家に連れて帰った頃には、午後九時を回っていた。
ただいま、と玄関扉を開けて入ると、意外にも母さんが出迎えてくれ、幸子に挨拶をした。
「あら~、いらっしゃいっ! 遠くからわざわざごめんなさいね?
高二の時、担任を受け持って頂いた桜庭先生でしたよね?」
「……あ。はい。桜庭 幸子です。あの、今日は、お世話になりますっ」
幸子は言うまでも無く面食らい、緊張していた。
「あら、ご丁寧にどうも。母の美麗です。幾つになっても不束な息子でごめんなさいね?
さぁさ、上がって上がって?」
母さんに促され、僕と幸子はリビングに向かう。
「……檜の会わせたかった人って、もしかしてご両親?」
「そっ。四年ぐらい前からだったかな。俺の両親、ここに住んでるんだ」
「え、そうなんだ?」
「うん。これも幸子をロンドンに呼んだ理由の一つ」
親に会わせる事イコール、結婚への手順と簡単に示すと、幸子は恥ずかしさに幾らか赤面した。しかしながら、それも束の間。廊下で歩みを止め、どこか神妙な顔付きになる。
「どうした?」
「……う、ん。あたしが元担任だって気付いて。お母さんに良く思われないかもしれないなって」
「なんだ、そんな事? 大丈夫だよ、あの人そういうの全然気にしないから」
ーーむしろ気にしたとしても、俺が言わせないし。