ボーダーライン。Neo【下】
「付き合うって言うか……向こうが良ければ結婚しようと思ってるけど」
若干照れて下を向くと、母さんは目を丸くして怪訝な顔になる。
「結婚って。また随分と思い切ったわね? 芸能界の仕事選んでおいて、早々に結婚って。もう世の中舐めてるとしか思えない」
こういった歯に絹着せぬ言い方をするのが母さんだ。僕はどこか懐かしくなり、苦笑をもらす。
「まぁまぁ、ひぃ君も一生懸命なんだからミレイはそういう事を言わないの」
「だってお母さん、檜は昔っから無鉄砲なところがあるから」
「無鉄砲はあんたに似たんでしょう?」
ね、ひぃ君? と目配せし、婆ちゃんは相変わらず僕を甘やかしてくれる。それに応えてフッと頬を緩めた。
「周りの事、何も考えずに結婚しようと思ってる訳じゃないよ。高三の時、彼女の両親には一度挨拶にも行ってるし」
「あら? そうなの? じゃあその先生の事やっぱり本気なのねぇ?」
「そーだよ。事務所の社長に許して貰えるかどうかは分からないけど。根気よく説得するつもりだし」
そう言って紅茶を飲み干し、席を立った。
「あんた、もう行くの?」
側に置いた鞄を手に持つと、母さんが僕の背中に問い掛けた。