ボーダーライン。Neo【下】
幸子の頭には、きっと昔の事が思い出されているのだろう。
まだ僕が高三の頃、幸子の親に酷く反対されたあの光景が。
幸子の手を引き、リビングの扉を開けた。二階へと続く階段を横目に、木製のテーブルへ行くと、まだ夕食の最中らしく大人四人は晩酌を楽しんでいた。
「食事中悪いんだけどさ。俺の婚約者の、桜庭 幸子さん」
彼女の肩に手を添え、突っ立ったまま家族に紹介するとみんなの視線がひとところに集まった。
「あ、あの。桜庭 幸子と申します。不束者ですが、よろしくお願い致します」
幸子は頬を赤らめ、仰々しくお辞儀をする。
「檜の父で、秋月 良次です。よろしく?」
率先して父さんが挨拶すると、爺ちゃん婆ちゃんも幸子に声を掛け、彼女は安堵から口元を緩めた。
「それじゃあ、あんた達はその席ね」
母さんに言われ、僕と幸子は向かい合わせに座る。
僕たちの夕食は既に用意されていて、腹を空かせた僕は手を合わせるなり、スプーンを手にした。手前のフィッシュパイを口に入れ、幸子にも遠慮なく食べるよう促した。
すっかりアルコールでほろ酔い気分の両親は、大らかな雰囲気で結婚について訊いてくる。
僕の職業柄、結婚式が出来るのかどうか、日本では無くイギリスで挙げた方が騒がれず気楽に済むのではないかーーそういった話を母さんから振られる。