ボーダーライン。Neo【下】

 チュッ、と短くリップ音が鳴った。

「これからはこんな夜ばっかだよ。俺は幸子を愛してるから、毎晩でも抱く。それで良いだろ?」

 言いながら彼はあたしの首筋に軽いキスを繰り返した。

「でも、……あっ。やだ、待って……っ」

「なに?」

 服の上から胸を触り、おもむろに押し倒すその逞しい腕に、あたしは待ったをかけた。

「今日は……、キスだけにして?」

「なんで?」

 突如、檜は目を見張った。

 だって、と曖昧に目を泳がせ、あたしは口をもごもごさせる。

「今日この家には。ヨーコさん達や、檜の……お父さんとお母さんもいるから。その、ね? 声が聞こえたら恥ずかしいし」

 あたしは迷いと懇願の瞳で檜を見上げた。

 本音を言えば、今すぐ抱かれたい。檜との性交(セックス)を、今まで何度となく反芻し、もう何ヶ月も思い焦がれてきたのだ。我慢したくない。

 けれど、そんな本音は言えず、あたしはやはり体裁を気にしていた。

 だって、さっき婚約者だと紹介されたばかりだったから。はしたない女だとご両親に思われるのは、絶対に嫌だったから。

 今にも覆い被さりそうな檜は、口角を上げ、「何だ、そんな事?」と言って微笑んだ。
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