ボーダーライン。Neo【下】
『……勿論。
またいつでもいらっしゃって下さい。秋月さんとは色々とお話もしたいし』
「……え、あ。はい、ありがとうございます」
『主人と二人でお待ちしていますね?』
それじゃあ、と言い、回線は途切れた。
「……お母さん。なんて?」
通話の切れた受話器を握り締め、僕は暫し呆然とした。
言葉の真意が読み取れない。
幸子の母親は僕を覚えていると言っていた。
芸能界で活動しているHinokiと、彼女が記憶している高校生が、一致しているかどうかは分からないが。今の応答は賛成と反対のどっちなんだ?
過去に言われた母親の言葉通り、時間を置いて働いて、それでも同じ気持ちなのだから来たいのなら来れば良い、結婚を認めるかどうかの話は別。そういう事なのか?
「檜……?」
再び幸子に呼ばれ、ハッとした。
「お母さん、なんて言ってた?」
「あ、……うん。またいつでもいらっしゃいって」
「……そっか。そうなんだ」
幸子は安堵の息をつき、頬に愛らしいえくぼを浮かべた。
挨拶に行くまではOKかどうかは分からない。
だからせめて、事務所の三高社長の許しだけは先に得ておくべきだ。僕はそう考えた。