ボーダーライン。Neo【下】



 幸子と過ごす休暇はあっという間に過ぎ去った。

 半日のフライトを経て、僕と彼女は無事に帰国を果たした。検疫や入国審査を済ませ、ターンテーブルより流れて来るスーツケースを受け取る。

 幸子の手を引いて歩き出すと、不意に彼女は立ち止まった。

「もう、ここで良いよ?」

 幸子が芸能人の僕を気にして、別々に歩こうとしているのは分かった。

「でも……」

 ロンドンのヒースロー空港から飛び立った時、僕は日本人観光客の目を気にして、帽子と伊達眼鏡でそれなりには変装をした。けれど、見る人が見ればきっと簡単にバレるだろう。

 国際線を降りて歩く、今の通路を抜ければ、僕はまた注目を浴びる存在となる。

 幸子は僕が掴んだ手をほどき、「大丈夫だから」と言って微笑んだ。

「ここで別れましょ?」

 スーツケースを転がし、彼女は僕とすれ違う。先を進む小柄な背を見つめ、ギュッと胸が詰まった。

 暫くはまた離れ離れだ。

 このまま別れるのが辛く、僕は再び幸子の手を掴んだ。後ろから抱き寄せ、彼女の耳元へ囁いた。

「愛してる。またすぐ、電話するから」

「……ん。分かってる」

 幸子は振り返り、両頬にえくぼを浮かべた。

「待ってるから」

< 58 / 188 >

この作品をシェア

pagetop