ボーダーライン。Neo【下】
幸子と過ごす休暇はあっという間に過ぎ去った。
半日のフライトを経て、僕と彼女は無事に帰国を果たした。検疫や入国審査を済ませ、ターンテーブルより流れて来るスーツケースを受け取る。
幸子の手を引いて歩き出すと、不意に彼女は立ち止まった。
「もう、ここで良いよ?」
幸子が芸能人の僕を気にして、別々に歩こうとしているのは分かった。
「でも……」
ロンドンのヒースロー空港から飛び立った時、僕は日本人観光客の目を気にして、帽子と伊達眼鏡でそれなりには変装をした。けれど、見る人が見ればきっと簡単にバレるだろう。
国際線を降りて歩く、今の通路を抜ければ、僕はまた注目を浴びる存在となる。
幸子は僕が掴んだ手をほどき、「大丈夫だから」と言って微笑んだ。
「ここで別れましょ?」
スーツケースを転がし、彼女は僕とすれ違う。先を進む小柄な背を見つめ、ギュッと胸が詰まった。
暫くはまた離れ離れだ。
このまま別れるのが辛く、僕は再び幸子の手を掴んだ。後ろから抱き寄せ、彼女の耳元へ囁いた。
「愛してる。またすぐ、電話するから」
「……ん。分かってる」
幸子は振り返り、両頬にえくぼを浮かべた。
「待ってるから」