ボーダーライン。Neo【下】
僕の好きな愛らしい笑みを見つめ、釣られて笑い返した時。
目の端にフラッシュの光源を感じた。
ーーえ?
それが正面からだと気付いた時には、もう手遅れだった。
「ホントだ。本当に現れた……っ!」
興奮混じりに言いながらも、目をぎらつかせた若い男が、連続してフラッシュをたいている。
ーー記者……!!
突如として冷水を浴びたように、僕は全身が凍りつくのを感じた。
ーーしまった……っ!
反射的に僕は幸子の前に立ちはだかり、後ろ手に彼女を隠した。変装も何もしていない自然体で、一般人の幸子が、写り込む事だけは避けたかった。
「やめろ! 撮るな!」
そんな事をしても無意味なのに、カメラに手の平を向け、記者の男を制した。
「良いね良いね〜、Hinokiのスクープいただきだっ!」
嫌らしく笑う男に恐怖を募らせ、幸子は僕の背中で震えている。
一人の記者から連鎖し、やがては周囲のざわめきが耳に入ってくる。
「え?」
「……なになに?」
「何かあったの??」
「――えっ?!」
「うそぉッ! あれってもしかしてFAVORITEのHinoki!?」
「――キャーーッ!」
「ちょっと! 誰よ、あの女ーっ!!」
驚きと衝撃を顕わにした叫びが、通路の先のフロア中を、あっという間に埋め尽くしていく。逃げ道など、最早どこにも用意されていなかった。
誰も知らない異国の地で、心を通わせ愛し合った日々は、こうして幕を閉じたのだった。
***