僕らはその名をまだ知らない
「ずっと、幼なじみのままだったらよかった?」



「………」



志摩の問いかけに、私は上手く答えられない。



志摩の唇が、俺は、と吐き出した。



志摩はそこで初めて、プリントから目線を上げた。



「俺は、お前に触れたかったよ」



深い蜜色の双眸が私を真っ直ぐに見つめる。



カタン。



シャーペンが机に置かれる音。



立ち上がった志摩は私の頬に、ゆっくりと手を伸ばした。



初めに指先が触れて、それから親指が目元を掠めて、壊れ物を扱うかのように優しく撫でられる。



志摩の熱が、私に流れ込んでくる。



「…嫌がらないの?」



「…だって、志摩だから」



「俺は、お前の思ってる幼なじみの志摩じゃない。お前の嫌なことだってする」



「嫌なこと?」
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