すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
観察
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「ベルデ様、こんばんは」

「こんばんは シーラ」

初めて言葉を交わしてから、挨拶をするようになり、いつしか話をするようにもなった。

話の内容は専ら本の話で、そういう資料ならあの書物が判りやすいとか、教えてもらうことの方が多い。

それに顔は知っているのに名前すら知らないことに気付き、お互い名乗り合ったのもつい先日だ。

「何とお呼びしたらよろしいでしょうか?」

「そうだな…」

答えるのにちょっと言い澱んだ彼を見て、自分もそれは墓穴だと思った。

「…ベルデと呼んでくれたらいい。瞳の色で昔からそう呼ばれていた」

「翠色ですね。綺麗な色で私も好きな色です」

砂漠の国では草木の鮮やかな緑は水の豊かな場所でしか見られない景色。

ポイコニーの王都に来る途中にみた一面の緑の景色は感動さえした。

「私の事は…シーラと呼んでいただければ」

「…シーラ、ね」

母の実家の名前を出していた。

ユナ=シーラ=タヤカウが母国では正式名称。

妃が何人かいたタヤカウでは、シーラの姫と母方の姓で呼ばれることも多かった。

久しぶりに聞いた気がする。

「ベルデ様、王都から南のマトーノ地方に関する書物ってありますか?」

「地方都市の歴史書なら、国史の棚の裏側にあったと思うが…」

「歴史ではなくて、土地の景色と言うか…物語の舞台がマトーノ地方らしくて、時折出てくる風景描写が美しいのです。だからどんな土地なんだろうかと…」

「それなら地理関係の各地の特色か観光モノかな。イラストが入っているものもあったと思うが」

「はい。探してみます。ありがとうございます」

最初は邪魔しないようにと思っていたが、聞けば普通に教えてくれるので、判らないことや知りたいことはまず聞くことが多くなった。

それが、当たり前になってきた。
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