すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
## 16
ボーン ボーン
低い音が振動を伴って小さく響く。
時刻を知らせる柱時計の音。
ふと気付いて周囲を見渡す。
学生たちの気配も無くなってきている。
柱時計に目をやると、21時を過ぎたころだ。
そして、少し離れた席には読書に集中している彼女がいた。
自身は日付が変わる時刻までいるのはよくあることだが、この時間まで彼女がいるのも珍しい。
「もう21時過ぎてるよ」
休憩ついでに彼女を部屋に戻るように促す。
「区切りの所まで読んでしまおうと思ったんだけど…」
パラパラと残りのページを捲りながら呟く彼女に、
「貸出し出来る本だったと思うけど」
「…貸出証、作ってなくて…」
「…あぁ…」
学生や研究員など、身元が判っている者は簡単な申請だけですぐに作れるのだが、また本当の名前が記載された貸出証を作って使うのも、お忍びで来ているのだから使いにくい。
「あまり遅くならないように…」
「はい」
再び本に目を落とす彼女を横目に見て、入口へと向かう。
軽食の場所で飲み物を注文して、カウンターの司書に指示を出す。
受け取った飲み物を飲んでる間に、司書が頼まれた物を持ってきた。
それを受け取ると、再び奥の作業場所へと足を向ける。
「はい」
「え?」
彼女の視界に入るように机に置いたのは新しい名前の記載されていない貸出証。
「使って」
「え、でも…」
「何かあっても苦情が俺のとこに来るだけだから」
そんなことはしないだろうと言外に込めて、苦笑してみせる。
「ありがとうございます」
「読み過ぎで、寝不足にならないよう気を付けて」
笑顔で受け取った彼女に注意は忘れなかった。
ボーン ボーン
低い音が振動を伴って小さく響く。
時刻を知らせる柱時計の音。
ふと気付いて周囲を見渡す。
学生たちの気配も無くなってきている。
柱時計に目をやると、21時を過ぎたころだ。
そして、少し離れた席には読書に集中している彼女がいた。
自身は日付が変わる時刻までいるのはよくあることだが、この時間まで彼女がいるのも珍しい。
「もう21時過ぎてるよ」
休憩ついでに彼女を部屋に戻るように促す。
「区切りの所まで読んでしまおうと思ったんだけど…」
パラパラと残りのページを捲りながら呟く彼女に、
「貸出し出来る本だったと思うけど」
「…貸出証、作ってなくて…」
「…あぁ…」
学生や研究員など、身元が判っている者は簡単な申請だけですぐに作れるのだが、また本当の名前が記載された貸出証を作って使うのも、お忍びで来ているのだから使いにくい。
「あまり遅くならないように…」
「はい」
再び本に目を落とす彼女を横目に見て、入口へと向かう。
軽食の場所で飲み物を注文して、カウンターの司書に指示を出す。
受け取った飲み物を飲んでる間に、司書が頼まれた物を持ってきた。
それを受け取ると、再び奥の作業場所へと足を向ける。
「はい」
「え?」
彼女の視界に入るように机に置いたのは新しい名前の記載されていない貸出証。
「使って」
「え、でも…」
「何かあっても苦情が俺のとこに来るだけだから」
そんなことはしないだろうと言外に込めて、苦笑してみせる。
「ありがとうございます」
「読み過ぎで、寝不足にならないよう気を付けて」
笑顔で受け取った彼女に注意は忘れなかった。