すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
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まずは国の歴史の本かな。

掲げられた案内表示を見ながら奥へ足を向ける。

ユナが読むのはもっぱら創作の物語が多い。

それでも物語の素地の部分ではその国の成り立ちや生活習慣が色濃く影響されているものだから、歴史書もひとつの物語のように読むようになっていた。

勉強にもなって一石二鳥だ。

奥にもいくつか机と椅子が並べられた場所があった。

しかし、人は殆どいない。

ずっと開館している事で、時間潰しや待ち合わせ場所などにも利用されて、入口近くの方が使い勝手がいいのだろう。

あまり目立ちたくないユナにとってはこちらの方が落ち着ける。

机や椅子もよく見ると長年使われたアンティーク感があって好みだ。

よし、ここで読もう、と目当ての歴史書を探し出し数冊を抱えて戻ってきたところ、人がいた。

慣れた手つきでいくつもの書籍を広げ、課題だろうかペンを取り出して書きものを始めている。

無意識にじーっと見てしまったらしく、視線を感じてか顔を上げる。

年上らしい黒髪の青年。

少し長い髪を邪魔にならないよう無造作にひとつに

束ね、綺麗な翠の瞳と目が合った。

邪魔してごめんなさいと言う意思表示を込めて、軽く会釈をすると、そばの机の椅子を引いて座る。

彼は表情を変える事無く、何もなかったように自分の作業に戻る。

静かな空間に本を捲る音とペンの走る音。

気が付けば結構な時間が経っていた。

知らない人が無言で側にいるのに、不思議と居心地が悪いとは思わなかった。

相手の様子を伺ったりするような気配を感じなかったからかもしれない。

そろそろ戻らないと心配をかける。

本を閉じて静かに立ち上がる。

今度は邪魔にならないようにと集中している彼から気配を消すようにそーっと離れる。

本を棚に戻し、足取り軽く部屋へと戻る。

図書館通いが日課になりそうだ。
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