心の鍵はここにある
「そう、あの時、里美ちゃんに泣かれてどうしようって思って。
花火を買って、夜みんなでやろうって言ってやっと泣き止んだよね」
そう言えば、そんな事もあった様な……。
隆之伯父さん夫婦には子供が居らず、私も一人っ子だった為、随分可愛がって貰っていた。
「幸雄さんから、あの時の子とお見合いしないかって話を貰って、懐かしくてお受けしたんだけど……。
里美ちゃん、キチンと彼氏居るんじゃ僕の出る幕はないですね。
里美ちゃんとは二十年以上会ってなくて、今日会えるのを楽しみにしていたんだよ」
本条さんはそう言って祖父の一存で話が進んでいた事に軽く触れ、祖父はまさか私が本当に彼氏を連れて帰って来ると思っていなかったからか、肩身が狭そうだ。
「本条さん、すみません。里美さんは、僕のものですから」
直哉さんがそう言って牽制するものだから、私は恥ずかしくて見る見るうちに赤面してしまう。
そんな私を見て、祖父も本条さんも笑っている。
「さて、里美ちゃんにも会えた事ですから、僕はもう帰りますね。里美ちゃん、越智さん、お幸せに」
本条さんはそう言い残して病室から出て行った。
病室に残された私達は、見送りに出ようとしたけれど本条さんに制された。
病室に残された私達は、しばらく沈黙していたけれど、その沈黙を破ったのは祖父だった。
「越智くんと言ったかな? 君は何処の出身かな?」
祖父の問いに、直哉さんは松山が地元であり、実家は祖父の家からまあまあ近い事、私達は高校時代同じ高校だった事等を答えた。
「……もしかして、由美子さんのお孫さんか?」
「祖母をご存知ですか?」
「知ってるも何も、由美ちゃんはワシの幼馴染で初恋の人だ!」
……おじいちゃん、この場におばあちゃんが居なくて良かったね。
祖父の顔は、恋する少年の様に目が輝いて、頬も上気してほんのりと紅い。
「そうかそうか、由美ちゃんのお孫さんか。で、いつ結婚するんだ?」
……は? 何故そこまで話が飛ぶ?
と言うか、何故私の結婚をそこまで焦るの?
入院して気落ちしていると聞いていたけど、見る限りピンピンしているし、かなり元気そうだ。
「五十嵐の家は、孫は結局里美だけだから、早く里美の花嫁姿が見たいんだよ」
祖父はそう言って笑っている。