心の鍵はここにある

「出来るだけ、優しくする。里美に嫌われない様に気を付けるけど……。手加減出来なかったらごめん」

 私には未知の領域なので、何も言えず、ただ立ち尽くしたままだ。

「……やべっ、何かガッついてるの丸わかりな発言だな。さ、弁当食べようぜ」

 直哉さんはダイニングの椅子を引いて私を座らせると、コンビニ弁当を電子レンジに入れて温め始めた。
 そして、冷蔵庫の中からペットボトルのお茶を出して、グラスに注いでくれる。
 直哉さんに接待されながらも、部屋の中をチェックして、自分の部屋にある家電製品の中で不要な物を頭の中でリストアップしていると……。

「どうした? 珍しいか?」

 テーブルの向かい側に座って私の顔を覗き込む。

「ううん、そうじゃなくて……。うちにある家電、こっちにある物は処分しなきゃって思って見てたの」

 温めてもらったお弁当に手をつける。電子レンジと冷蔵庫は、確実に要らない物にカウントする。

「そっか、そうだよな……。明日から少しずつ荷物運びするか?
 夕方里美が帰宅して荷造りした物を、俺が帰宅した時に一緒に運べばいいから」

「とりあえず、衣装ケースに入れてある冬物の服ならすぐに運び出せるけど……」

「そうだな、すぐに使わない物の方がいいかな。週末、藤岡にも手伝わせるから引っ越ししよう。
 使わない家電製品は、リサイクルショップに引き取って貰えばいいし」

 えっ、藤岡主任に? 職場の人に知られるのは恥ずかしいと思っていたら……。

「明日、里美は多分起き上がれないからその時点でもうバレるって。諦めろよ」

 直哉さんは意地悪く笑い、スマホで何やら打ち込んでいる。直哉さんがスマホをテーブルに置いたその瞬間。
 そのスマホから着信音が鳴り響く。
 液晶には……。『藤岡』とある。まさか……。

「もしもし」

『もしもし。じゃねーよ! お前今何処にいるんだよ、松山から戻ってないのか?』

 藤岡主任の声が、割れんばかりの声量でスマホから洩れている。

「いや、こっちに戻ったけど。明日、里美、有給扱いで休ませてやって」

『だからどうしてそうなる?』

「これから無理させる予定でな。詳しく聞くな。じゃあ、そう言う事で」

 そう言って、直哉さんはスマホの通話ボタンを切った。
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