心の鍵はここにある
通話ボタンを切る寸前まで、藤岡主任の叫き声が響いていた。一体、何てメッセージを送ったのだろう。
「さ、明日の事は気にしなくていいから。ほら。弁当食べよう」
直哉さんにはぐらかされて納得行かないまま、お弁当を食べ進める。
「うち、コーヒーメーカーあるけど壊れててさ。里美は持ってる?」
「うん、あるのはあるけど。私、家ではインスタントばかりだから使ってない」
「じゃあ、それは明日持ち込みだな。あと、アイロンある?」
「うん、活用してる」
「じゃあ、それも明日こっちに持ち込んで」
「え? それは困る! スカートのシワ、直せないし」
「うちでアイロンかけたらいいじゃないか。どうせ今日から里美はここに住むんだし。
あ、合鍵渡しておかなきゃだな」
え? 今日だけのお泊りじゃないの? 固まる私をよそに、直哉さんは部屋に合鍵を取りに行った。
「これ、うちの鍵。落としたりするなよ?
それから、向こうの部屋は、今月いっぱいで引き払う事、出来そうか?」
直哉さんが私の手を取り、手のひらに鍵を握らせながら私に聞いた。
今日は八月十二日。慌ただしい帰省だったから、お墓詣りすら行けなかった。
次の帰省の時に、お互いのお墓詣りに行かなきゃな……。
今度の週末は十八日、十九日。天気次第になるけれど、この時藤岡主任を呼んで午前中に大きな荷物の搬入をする予定らしい。午後からリサイクルショップに家電を引き取りに来て貰うんだとか。
後は部屋の掃除をすればいいので、今月中に引き払う事は可能だ。
ただ、エアコンを取り外さなければならないので、これだけは業者さんにお願いしなければならない。
エアコンも、リサイクルショップに引き取って貰う予定なので、果たして土日に業者さんが捕まるか……。
それを直哉さんに伝えると、なんて事はないと言う。
「それなら俺、出来るけど?」
え? 今何て?
「学生の頃、夏休みにエアコン取り付けのバイトやってたんだ。だから取り付け取り外しは出来るよ。
室外機も設置はベランダだろ? ただ、ここでは中の洗浄が出来ないからなぁ……」
「多分、埃が凄い事になってそう……」
「ああ、多分真っ黒だろうな」
エアコンフィルターの掃除はしていても、中までは出来ないので、想像しただけでゾッとする。