心の鍵はここにある

 やはり思っていた通り、髪の毛は柔らかい。再会した時に髪の毛の色が学生の頃と違って見えたのは、照明の当たり具合だったのか、太陽光の当たり具合だったのか、はたまた私の記憶違いだったのかと思っていたら……。
 謎が解けた。
 直哉さんは若白髪が凄くて白髪染めをしている様だ。黒で髪の毛に色を入れても、日数が経過すると色が抜けていくので、生え際は白くなっている。
 なかなか頭頂部なんて見る機会がなかったので、こんな事でもなければ気付けなかっただろう。
 髪を乾かして、ドライヤーを止めた。
 ドライヤーのコードを纏めて洗面所へ持って行き、戻ると直哉さんは冷蔵庫からアルコールを取り出した。

「里美も飲むか?」

 私に差し出したそれは、アルコール三%の缶チューハイだ。

「これの半分でいいよ。全部飲んじゃうと寝てしまいそう……。

「それは困るな、この後わかってる?」

 質問の意味は十分理解しているだけに、答えられない。赤面して俯く私に、直哉さんは優しく声を掛けてくれる。

「俺だって、ずっと片思いしていた子相手に、想いを受け入れて貰えて……。
 こんな事、初めてなんだ。だから、里美と一緒だ。緊張して、アルコール飲まなきゃ恥ずかしくて……」

 直哉さんの言葉に、思わず顔を上げる。
 直哉さんも、まだアルコールを摂取していないのに薄っすらと顔が赤い。

「今まで気持ちのない子を散々抱いて来て何を言ってるって思うかも知れないけど……。
 里美の事に関しては、もう誰にも譲れない。それだけ余裕もないし、今も早く自分の物にしたいって思ってる。
 アルコールで、これからの行為に対する里美の緊張が少しでも解けるなら、飲んで欲しい」

 直哉さんの言葉に素直に従って、缶チューハイを受け取った。
 それは、飲み口の優しい甘い柑橘系の物だった。
 プルタブを開けて、缶に直接口をつけると、口の中に、みかんの味が広がる。
 直哉さんはそんな私を見つめながら、缶ビールに口をつけている。

「もしかして、こっちの方が良かったか?」

 再会した時に、グラスに残っていたビールがあったのを思い出したのだろうか。
 私は首を横に振る。

「甘いお酒は酔いがまわるのが早いから、外では飲まないの。でも、家でも一本飲み切れないから……。
 ……余ったら、飲んでくれる?」

「ああ、任せとけ」

 ダイニングテーブルで向かい合わせで座り、お互い話をしながらお酒を飲む。
< 112 / 121 >

この作品をシェア

pagetop