心の鍵はここにある
「……ああ、俺だ。昨日の予告通り、今日は里美、休ませるから頼むな」
『おまっ……、まさか……?』
「想像に任せる。あ、それから里美は俺のマンションに引っ越すから、週末手伝いに来てくれよ」
『はあっ? 何だそれ?』
「だから言葉通りだって。一緒に暮らすんだ。
近く、また一緒に松山に帰るけど、俺、五十嵐直哉になる予定だから」
『おいっ、ちょっと待て!』
「じゃ、そう言う事で。詳しい事は週末な、よろしく」
直哉さんは言いたい事だけ言って、通話を切った。
スピーカー越しに聞こえた藤岡主任の声は、直哉さんとの会話内容が衝撃的だったのか声が大きくてダダ漏れだったので、表情が容易に想像出来る。
「初めてだったのに、無理させてごめんな。今日はゆっくりしてていいから」
そう言い残して、私に甘い甘いキスを落として出勤した。
直哉さんが出勤して、しばらく動けずにいた私だけど、流石にゴロゴロしていてもトイレに行きたくなるし、喉も乾くしお腹も空く。
産まれたての子鹿の様に、足がプルプルと震えて力が入らないけれど、壁伝いにゆっくり歩いて、部屋から出ると……。
ダイニングテーブルの上に、メモ書きがあった。
『冷蔵庫の中に、サンドウィッチとジュースがあります。
お昼は申し訳ない、何もないので適当に済ませて下さい。』
思わず笑みが浮かぶ。メモ書きをテーブルの上に戻し、壁伝いにトイレに向かった。
ようやくトイレも済ませて落ち着いたので、直哉さんの好意をありがたく思い、冷蔵庫の中のサンドウィッチとジュースを朝食にいただいた。
時計の針は、十時二十分を指していた。いくら腰が立たないとは言え、だらけ過ぎだ。
食事を終えてゴミを片付けると、昨日持って来た荷物から普段着で着れる服を取り出して着替えると、身支度を整えた。