心の鍵はここにある
「……なら、もう一層の事、俺の彼女と公言するか?
 それなら嫌がらせもされないんじゃないか?
 もし陰で何かあったら逐一俺に報告くれれば対応する。……どうかな?」

 越智先輩の発言に、加藤先輩が反応する。

「あのね……。
 女子は恋愛事に関しては陰湿なんだよ? そんなので五十嵐さんを守れると思う?
 それならさ、直が五十嵐さんの事が大好きでベタ惚れで溺愛して、何かあったらタダじゃおかないってのをアピールしなきゃ守れないよ。
 それに、卒業するまではそれでよしとするよ。
 でも来年は? 今の二年、牽制しなきゃ」

 ……何だか話が凄い事になって来た気がする。
 そこまでして、マネージャー獲得しなきゃいけないの?

「……あのぉ」

 私の声に、先輩達の視線が向けられる。
 身長差が軽く二十センチ以上あるので、正確には見下ろされている、だ。

「今の、二年の女子のマネージャーさんに、男子の方をやってもらう訳にはいかないんですか?」

 これが一番角が立たないと思うんだけど……。
 でもどうやら先輩方はそれでは納得しないご様子。

「今の二年のマネージャーは三人居るんだけど、これも色々あってね……。
 五十嵐さんがやってくれるのが一番いいの。……ダメかな?」

 彩奈先輩の、困った表情が、ますます私の不安を煽る。
 その色々って言うのが、とっても気になります。

「……その三人にも、俺、過去に告白されてるんだよ。
 もちろん断ってるけど。だから、その中からってなるとまた揉め事になるから」

 なるほど、そういう訳ですね。
 事情は理解出来たものの、だからって私がマネージャーを引き受けるには、大変な覚悟を決めなければならないのは何故だろう。
 と言うか、そこまでして私がマネージャーをする理由はない。

「ややこしい人間関係に巻き込まれたくないので、やはり退部させて頂きたいです」

 私はそう言って頭を下げると、踵を返して、二人を残して自分の教室へと向かった。
 ……筈が、腕を掴まれて動けなくなった。

「……誰が帰っていいって言った?」

 腕を掴んでいるのは越智先輩だ。顔を見れば、どす黒い笑顔が貼りついている。
 ……やだ、こわい。

「ですから、私はそういう面倒に巻き込まれる為に入部したのではありませんから。
 他を当たって下さい」

「やだ。俺は、君がいい」

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