心の鍵はここにある
「やだじゃないです。私が嫌なんです。
 せっかく頑張って合格した高校での生活、穏やかに過ごしたいです」

「だから俺の彼女って事にしとけばいいじゃないか」

「嫌です。お互いに本当に好きな人が出来た時、面倒になりますよ?」

「なら、俺の事好きになれ」

「好きになれって……? 先輩はそんな簡単に好きになれるんですか?」

 私と越智先輩とのやりとりを見ていた加藤先輩は、急に笑い出した。

「うん、ここまで息がぴったりなら、直が五十嵐さんを溺愛してるって事にすれば大丈夫。
 直が卒業してからも、一年は付き合ってる事にしなさい。
 直、それまで本命の彼女作ったらダメよ?
 五十嵐さんをマネージャーにするなら、そこまできちんと責任取りなさい」

 加藤先輩の言葉に、越智先輩は恐ろしい返事をした。

「わかってるよ。と言う訳で、今日から頼むな、里美」

 越智先輩は私の頭をポンと軽く叩いて教室へと戻って行った。
 加藤先輩は、越智先輩を見送り、私に向かって言った。

「私が在学中は、絶対に五十嵐さんを傷付ける様な奴から守ってみせるから、何かあったらすぐに言ってね?
 直もあなたの事が気に入ってるみたいだから、きっと上手くやってくれる。
 私と直、実は従兄妹(いとこ)なの。私の母が、直のお父さんの妹で。
 この関係はみんなも知ってるから、私が直と一緒にいるのは何も言われないし。
 だから今のやり取りも邪魔が入らなかったでしょ? これが他の女子だったら大変な事になるわ。
 しばらくの間は、直と私が五十嵐さんに張り付いて回りを牽制するから、安心してマネージャー引き受けてくれると助かるな」

 ……何だか厄介ごとに巻き込まれるのは必至らしい。
 私は何を言ってもその上を行く対応に、諦めを覚えた。


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