心の鍵はここにある
越智直哉と言う先輩
男子バレー部のマネージャーを引き受ける事になり、もしもの時の嫌がらせ回避の為に私が越智先輩の彼女だと言う事になった。
一応、この事は三人だけの秘密となり、さつきにも言えないらしい。
さつき、バレー部に好きな人がいるって言ってたけど、越智先輩だったらどうしよう……。
友情に亀裂が入る事だけはしたくないけれど……。
放課後になり、更衣室でジャージに着替え、体育館へと向かうと、既に体育館には体操服に着替えた越智先輩が来ており、手招きされた。
小走りで駆け寄ると、先輩は体育館脇のステージ袖に移動するので、私は後を追って行く。
確かにここなら、人目につかずゆっくり話が出来る。
「今日から迷惑かけるけど、頼むな。
で、一応付き合ってるって設定だから、今からそれの打ち合わせするぞ」
私の顔を覗き込みながら、越智先輩は話を始めた。
「話を合わせておかないと後々厄介だからな。
俺が里美を気に入って、俺から告白して無理矢理マネージャーで引っ張って来たって事にしとくぞ。
里美は、とりあえず今まで通りにしてていいけど、付き合ってるって事だけは否定するなよ?
それから、彩奈も言ってたと思うけど、この事は三人だけの秘密だから友達にも言うなよ」
何度も念押しされる。私は頷くしかない。
「で、俺が惚れた事にしてるから、ベッタベタに甘やかすけど、勘違いするなよ?
あくまで芝居だからな」
この言葉にカチンと来たけれど、黙っておく。
私は頷いて、ここから立ち去ろうとしたけれど、越智先輩にまたまた腕を掴まれた。
「一応俺は彼氏なんだから、越智先輩って呼ぶの止めろ」
かなりの無茶振りが来た。
「俺だって、里美って呼ぶんだから、名前で呼ばなきゃおかしいだろ? それから、俺に対しての敬語も禁止」
一方的な物言いに、流石に我慢の限界が近づいてきた。
努めて冷静に、話をせねば。私は一度深呼吸して、口を開く。
「……お言葉ですが、まだ付き合い始めたばかりの設定で、相手が3年の先輩です。敬語禁止は無理です。
それから名前呼びですが、これも私にはハードルが高すぎます。その辺り妥協して下さい」
越智先輩、私の訴えをあっさり却下しそうな態度だけど、これは譲れない。
「先輩は恋愛経験豊富でしょうから、色んな女の子達を見てるでしょうけれど、私は初めてなんです。
カレカノとか、お付き合いとか……。だから、芝居とは言え、その辺は……」
私の言葉に反応する越智先輩。
「へえ、初めてなんだ?」
越智先輩は、ニヤリとするとジワリとにじり寄って来た。
徐々に距離を詰めて来るし、身長差があるから、圧迫感が半端じゃない。何だかヤバイ雰囲気だ。
「じゃあ、こんな事も、初めて?」
俗に言う、壁ドン。背後にはもう逃げ場がない。