心の鍵はここにある
 彩奈先輩が何か反論しながら直先輩を追いかけて行って、この場に静寂が戻ると、さつきが私に色々と問いかけて来る。

「え? どう言う事? 付き合ってるんじゃないの? 今の話、何?」

 私もさつきも混乱していた。

「とりあえず、お茶の準備に行こう。家庭科室で話をしよう」

 さつきに促されて家庭科室へ向かう。
 夏休みとあり、家庭科室に出入りするのは部活関連のマネージャーばかりだ。
 今日部活で登校しているのは、グラウンドにいる野球部とサッカー部、体育館のバレー部、武道館にいる剣道部、校内の各教室で分散している吹奏楽部。
 家庭科室にも、各部のマネージャーが出入りするので、なかなか落ち着かない。それに下手に話をして聞かれるとまずい内容だけに、今日はさつきにお泊りに来て貰う事にした。

「全部話してね、隠し事はなしだよ?」

 さつきの言葉に頷いて返事をした。
 今日は直先輩が部活に参加しているから、帰宅は一緒になるかも知れないけど、断ろう。
 あんな言葉を聞いた今、偽物でも彼女の振りをするのは無理だ。

 嫌われてはいないと思っていた。
 先輩が引退して、なかなか会う機会がなくなり、それでも『彼女』と言う肩書きに甘える事なく、自分なりに精一杯頑張って来たつもりだけど……。
 先輩には私は『無理』なんだ。
 私自身を否定するその言葉は、私の心を傷付けるには充分の凶器だった。
 その後の私は、何とか平静さを取り繕いながらもマネージャー業をさつきと一緒にこなした。
 部活が終わり、部員は部室で着替えを済ませて帰宅して行く中、私とさつきは体育館のモップがけをしていた。
 明日は体育館をバスケ部が使用する為、バレー部は休みだ。
 体育館は、バレー部、バスケ部、バドミントン部の3つがローテーションで使用している。

 通常は体育館を三分割して使用しているけれど、ボールやシャトルが飛んで来たりで他の部に迷惑がかかる為に、夏休み限定で一日体育館を貸し切り状態で各部が使用する事になったのは、数年前かららしい。
 但し、午前中は全学年補習があるので、実質使用出来るのは午後からだ。

 毎日の練習がないからどうなの?と言う声もあったけれど、他の部に気兼ねなく練習が出来るからいいと言う肯定的な意見が多く、毎年恒例になっているそうだ。
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