心の鍵はここにある
体育館を使用する三つの部は、男女共にあるので、それぞれ体育館を半分に区切っても広々と使えるのだ。
モップがけが終わり、戸締りと電気の消し忘れがないかを確認し、さつきと一緒に体育館を出ると……。
直先輩が待っていた。着替えも終わり、自転車を体育館の側まで運んでいた。
「もう片付け終わったか?」
直先輩の言葉に私達が頷く。
「久しぶりに送って行くから、早く着替えて来いよ」
先輩の言葉に反応したのはさつきだった。
「先輩、ごめんなさい!
今日は私、里美の家にお泊りするんで、一度私の家に寄ってから母に送って貰うんです。
里美も一緒なので、今日は……」
さつきの声に、目を見開き驚いた表情を見せた先輩は、私の顔を見た。
私は、頷いてごめんなさいと謝ると、来月まで部活に顔を出せないと私に伝えて帰って行った。
先輩がすんなりと帰宅してくれて良かった。
きっと一緒にいると、私の態度が不自然になるのがわかってしまうだろうから。
さつきと一緒に更衣室へ向かい、ジャージから制服に着替える。
「ねえ、詳しい事は後からゆっくり聞くけど、先輩っていつもあんな感じ?」
脱いだジャージをスポーツバッグに入れながら私に話しかける。
さつきは幼少期から長期休暇中に松山に帰省した時必ず一緒に遊んでいたので気心が知れているので、付き合いが楽だ。
「うん、いつもそう。
私の事、甘やかすって言ってたけど、甘やかされた記憶がない。いつもからかわれて終わり」
「そうなんだ……。でもさ、直先輩って基本、女子に優しくないじゃない?
彩奈先輩は従兄妹だから別だけど。
女子生徒と一緒に居る所とか見た事ないし、里美と一緒に居るっての、かなりレアなんじゃないかな」
言われてみれば、確かに直先輩は女子生徒に基本的に冷たい。
上級生から聞いた話は、私が偽物の彼女になる前は、女子生徒を寄せ付けなくて、唯一話をするのが彩奈先輩だったとか。
だから、あの二人は従兄妹で付き合って居るのではとの噂もあったらしい。
実際にそんな事はなく、単に直先輩が部活バカで女の子が面倒くさいだけだったけど……。
マネージャー確保の為に、わざわざ偽物の彼女に仕立て上げられた私の事は、どう思っていたのだろう。
『里美だけは無理』