心の鍵はここにある
12年の空白ーside直哉ー
十二年前ーー
高校三年の七月末、補習の為に登校していた俺は、久しぶりに里美に会った。
何故か職員室前で。
部活を引退する前までは毎日顔を合わせていたのに、いざ引退してしまうと、お互いなかなか時間が合わなくて、約束をしなければこうして校内で会う事なんて滅多にない。
ましてや、休日に外で会う事なんてした事すらなかったのだ。
何故俺は、あの時、里美にきちんと向き合わなかったのだろう。
いつもと様子が違っていたのは、一目で分かっていた。
きちんと話をしていたら、あの時何かが変わっていただろうか。
まさか、あんな形で里美が俺の目の前から突然消えてしまうとは思わなかった。
あの頃の俺は、部活馬鹿とよく言われており、女の子と付き合う事なんて二の次だった。
中学の頃から始めたバレーボールの楽しさに取り憑かれ、女の子が勇気を出して告白してくれているのにそれを正直疎ましく思っていた。
だから俺目当てで男子バレー部のマネージャーを志願してくる子は告白されても片っ端から断った。
俺のせいで部員みんなに迷惑をかけてしまっているのは重々承知していたけれど、マネージャーが退部するのは彼女達の勝手で俺が悪い訳ではないとの認識がみんなにもあったので、それに関して当時の先輩や後輩に咎められる事はなかった。
ただ、マネージャーが決まらない事には雑用も全て自分達でこなさなければならない状態で、下級生がローテーションを組んで受け持っていたけれど、練習が疎かになる。
なので、二年の終わり頃に女子バレー部にいる、同い年の従妹の彩奈に相談してみる事にした。
現在の女子バレー部にはマネージャーが三人いるが、それは全て俺が告白を断った子達だ。
彼女達に頼むとまた厄介ごとに巻き込まれる可能性もあり、でも人手が欲しい俺は、年度替りの4月に女子バレー部にマネージャー希望者が入部したら、その子を男子バレー部のマネージャーに回して欲しいとお願いした。
そうして入部して来たのが、五十嵐里美だった。
俺と彩奈との間で話をしていた事もあり、彼女は男子バレー部のマネージャーを引き受けてくれると思っていたが、本人の意思を無視したこちら都合の話を誰が納得するだろう。
マネージャーを断りに来た五十嵐里美にガツンと言われ、ハッとした。
俺が彼女の立場だったら間違いなくキレていただろう。
彼女の言葉で、いかに自分が傲慢で自分本位な人間なのかを思い知らされたと同時に、年齢など関係なく自分にはっきりと意見してくれる彼女がどうしても欲しくなってしまった。
だから無理にでも側にいて欲しくて、自分の彼女になれと言ってしまった。
今まで散々告白されて断りまくっていたから、逆恨みが彼女に行かない様に、とにかく牽制しまくった。
彩奈も女の嫌がらせは悪質なのを分かっているだけに、出来るだけ彼女に気を配り、迷惑をかけない様にしてくれた。
でもやはり、それを面白く思わない輩がいるのは当然で、未遂ではあるが里美に被害が及びそうになった。
犯人は二年のマネージャー三人組で、彩奈の後輩がたまたま目撃して報告してくれたから、彩奈と二人でそいつらに制裁を加えた。