心の鍵はここにある

 帰省したはいいけど、声なんてかけられなかった。こっそりと大学の構内で見かけた里美は……。
 見た目もすっかり変わってしまっていた。
 俺の目には、どんな里美も可愛く映るけれど、見た目がすっかり地味に、雰囲気も良く言えば控え目、悪く言えば地味で暗くなっていた。
 里美の性格にまで影響を与えてしまったのか? 俺は再び激しく自分を責めた。

 俺の可愛い彼女をここまで追い詰めてしまっていた事を、あの時、素直になっていれば……。
 高松から、里美がすっかり地味子になってしまい、誰一人男達から声がかからない事を聞き、その点だけは安心した。
 そして、俺は決意した。

 大人になって再会出来た暁には、二度と同じ過ちは繰り返さない。
 自分の気持ちに正直になる。絶対に里美を諦めない。
 必ず彼女を手に入れる。溺愛して離さない。
 この日から、俺はだらしない女性関係を全て清算した。

 そうして大学を卒業して七年後、機は熟した。
 大学時代の友人の一言が、俺の望みを繋いだ。
 どうやら同じ会社の後輩が、五十嵐里美、本人だと。

 大学時代の友人の結婚式の日、珍しく泥酔した俺を藤岡が家に送ってくれた際、部屋で里美の写真を見られてしまい、もしやと思い里美の身元を調べてくれていた。
 俺は藤岡に、里美が俺の高校時代の後輩である事、ずっと片思いしている子である事を打ち明けた。
 大学入学当初、里美を諦めようと自暴自棄になり、女性関係が荒れていた事を知っている藤岡は、里美を紹介する事を渋っていたが、事情を知った事により、俺に一度だけチャンスをくれた。
 里美に再会出来る事が、こんなにも嬉しいなんて。
 でも、再会した里美は、俺に対する気持ちはどうなんだろう。
 ウソカノ時代、マネージャーを引き受けさせる為に『俺に惚れてみろ』と言って暫くした頃、『惚れてもいいか』と聞かれた事があった。

 あの時は、偽者でも里美は彼女だからいいよって言った筈だ。
 あの時、照れ隠しで偽者でもと余計な言葉を使ったけど、あれを言わずに惚れてくれといえば良かった。
 今の里美は、俺のせいで内向的になってしまっているに違いない。
 俺の愛情で、里美を包んでやりたい。
 そして、俺の事を好きになって欲しい。
 その為だったら、何だってやる。

 里美が信じてくれるまで、「好きだ」と伝えよう。「愛してる」と伝えよう。
 十二年も経ってしまったけれど、俺の初恋だから。
 ずっと、心の中に棲みついた女の子だから。

 強引だと思われようが構わない。あの頃の様に、一緒にいて楽しい関係に。お互いを思いやれる関係に。
 そしていつかお互いに、なくてはならない関係になりたいからーー。



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