心の鍵はここにある
入館証を守衛さんに見せ、ゲートを通過。
そのままエレベーターで、総務部のある三階へと向かう。
途中、同期の子にも会い挨拶をしたけれど、特に仲が良い訳ではないのでそれ以上の会話はない。
各階毎に更衣室があり三階の更衣室へ入ると、ちょうど春奈ちゃんと一緒になった。
「里美さん、おはようございます」
「おはよう、春奈ちゃん」
今日の春奈ちゃんの格好は、パステルカラーのフェミニンなワンピースの上に濃紺のジャケットを羽織っている。
きっとデートで何処かにお出掛けするのだろうか。
それに比べて私は、無地のカットソーにタイトスカート、全てにおいて地味な格好だ。
スマホの電源を切りロッカーの中に荷物を入れて、事務服に着替えると、春奈ちゃんが待っていた。
「里美さん、昨日の越智さんの事ですが……」
更衣室には他にも人がいるので、場所を変える。給湯室も人の出入りがあるので、非常階段に移動した。
「あの人、大丈夫ですか?
拓馬くんの大学時代の友達だし、里美さんの知り合いだから悪く言いたくありませんが……」
「何だかあの人、女にだらしなさそうです。前に映画館の前で会ったんですけど……」
「……女でも連れてた?
身長の高い、ショートカットのデキる女って感じの、私と正反対の人」
「里美さん……! どうして……?」
どうやら図星だった様だ。
つい先程、先輩に声を掛けて来た女性が、正にその女性だ。
きっと春奈ちゃんが見た女性と同じ人だろう。
そして、その女性と何かトラブルでも起きて、私は偽物の彼女に駆り出されるのだろう。
十二年前と、動機は違えど偽物の彼女に変わりはない。
「心配しなくても大丈夫だよ。
先輩は私の事、偽物の彼女として利用してるの分かってるから」
春奈ちゃん、ごめんね。本当は、十二年前からずっと先輩の事を想ってる。
でも、それを口にしたら、二度と立ち直れそうにない。
「里美さん、それでいいんですか?
拓馬くんの友達だし悪い人ではないとは思うけど、里美さんを傷付ける人なら私は全力で阻止します」
「ありがとう。春奈ちゃんのその気持ちだけで十分だよ。
何かあればその時は相談に乗ってくれるかな。私、恥ずかしながら恋愛経験とかないから……」
「もちろんです! 絶対言って下さいね。……あ、そろそろ時間、ヤバイですよ」