心の鍵はここにある

 洗面所で楽な部屋着に着替え、春奈ちゃんには寛いで貰っている間に夕飯の支度を始める。
 春奈ちゃんも手伝うと言ってくれるものの、部屋が狭く、スペースが足りない為、テレビでも見て待って貰う事に。
 久しぶりの自宅で作る揚げ物なので、作りながらウキウキする。
 全ての料理において、一人分の量だと作るのが手間だ。
 それに、誰かと一緒にと言うのが、何より嬉しい。
 じゃが芋を茹でる間にサラダを作り、卵焼きを焼く。
 衣をつけて油で揚げる前に味噌汁を作り、いい感じで仕上がっていく。
 春奈ちゃんは、私の後ろで食器を出してくれたり洗い物をしてくれたりと、結局手伝わせてしまった。
 食事の準備が完了し、部屋に運んで一緒にご飯を食べる。
 やっぱり一人より、誰かと一緒にご飯を食べるのがいい。

「では、「いただきまーす」」

 小さな机の上に、食器が所狭しと並んでいる。
 思えばこの部屋で、家族以外の人とこんな風に一緒に食卓を囲むのは初めてだ。
 春奈ちゃんが、先ずはコロッケに箸をつける。

「うん、いい塩加減。美味しいです!」

 春奈ちゃんの満面の笑みに、私も笑顔になる。口に合ってよかった。

「たくさん作ったからいっぱい食べてね」

「はいっ、遠慮なく!」

 ご飯を食べながら、当たり障りのない話をした。
 殆ど春奈ちゃんから色々と聞かれる事ばかりだったけど、私が応えると春奈ちゃんも自分の事を話してくれた。
 私の部屋の小物が、殆ど自分で作った物だと話をしたら、春奈ちゃんは驚きながらも目を輝かせて話に食いついてきた。

「このカーテンも手作りですよね? 凄いなぁ。この棚だって流行りのDIYですよね?こんなお部屋、理想だぁ」

 私の部屋は、レトロなカントリー調に仕上げたDIYの棚がアクセントの、少し可愛い感じになっている。
 仕事が休みの日に、部屋を汚さない様に古新聞を敷いて、一人でコツコツとレトロなペインティングを施した。
 カーテンや暖簾だって、一手間加えてオリジナルだ。

 こうやって褒めて貰えると恥ずかしいけれど素直に嬉しい。

「そういえば、昨日ご実家から電話かかってましたよね? 大丈夫だったんですか?」

 唐突に春奈ちゃんが話を変えてきた。
 あ、あの話も、先輩に相談出来ていない。さてどうしよう……。

「うん……。松山にいる祖父がね、ちょっと……」

 言葉を濁すものの、やはり春奈ちゃんは気にしてしまうだろう。

「ちょっと今、体調崩して入院してるんだって。
 それだけならまだしも、本人がかなり気落ちしちゃってるみたいでね……」

「里美さん、大学の時はそのおじいさんと……?」

「うん、四年間住まわせて貰ってお世話になったの。
 だから私も気になっちゃって……。母からも一度お見舞いに戻りなさいって」
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