心の鍵はここにある
春奈ちゃんは、帰りにでもパンフレットを駅近くにある旅行代理店に取りに行くと言う。
少しでも役に立てた様で良かった。
私の作ったご飯を綺麗に食べ、食後のデザート、わらび餅を出した。
帰宅してから冷蔵庫の中に入れていたので、少しだけ冷えたそれは麦茶によく合う。
二人で美味しく頂いた。
わらび餅を食べ終わり、時計を見ると、もうすぐ二十時。
「そろそろお暇しますね」
春奈ちゃんは帰宅を申し出た。
駅から自宅まで、お迎えをお願いするメッセージを送って、スマホをバッグに仕舞った春奈ちゃんは、食器を運んで洗おうとした。
それを制して、私は駅まで送って行くと申し出た。
しばらくお互いがいやいや、それは…などと言い合っていたけれど、時間の経過を伝えると、春奈ちゃんはやっと折れた。
二人で駅まで歩き、改札を通って行く後ろ姿を見送ると、私は再び家路へと向かう。
金曜日の夜だからか、駅前は賑わっている。
先程の話で、旅行代理店にあるパックツアーのパンフレットを持って帰るのを思い出し、代理店の前に置いてあるチラシを取る。
パンフレットをバッグに入れようとした時にスマホが光り、メッセージが届いた事を知らせているが、帰宅するまで放置しておいた。
途中、炭酸ジュースが飲みたくなり、夕方買い物に行ったスーパーに立ち寄った。
サイダーとオレンジ味の炭酸ジュースを購入し、マンションへ戻る。
そういえば、制服デートと呼べるのか既に定かではないけれど、部活帰りに先輩と一緒の時、喉が渇いたからと言って、自動販売機でジュースを買って、飲みながら帰ったな……。
あの時も、先輩がサイダー、私がオレンジ味で……。
無意識のうちに、同じ物を買っていた。
マンションに戻り、サイダーを冷蔵庫に入れてオレンジはそのままテーブルの上に置くと、バッグから先程のパンフレットとスマホを取り出した。
スマホの画面には、メッセージが表示されている。
春奈ちゃんからの物だった。
『今日はとても楽しかったです。里美さんの手料理、とても美味しかったです。
良かったらまた女子会しましょうね。おやすみなさい』
ラインには、可愛らしいうさぎのスタンプが押されていた。
……そうか、これって女子会だったんだ。
昨日から色々な事があり、春奈ちゃんのメッセージ、『女子会』の言葉に癒された。
そして、もう一件。
実家の母からの物だった。
内容を確認して、途端に気が重くなる……。
さて、どうやって逃れようか……。やはり、先輩にお願いするべきか。
タイムリミットは、迫っていた。