心の鍵はここにある
「……先ずはコーヒーでも飲もうか、これ、ありがとう」
「……はい」
手元のアイスコーヒーに口をつける。
ブラックを勝手に買ったけど、良かったのだろうか。先輩の様子を窺ってみると、何も言わず飲んでいる。
なら大丈夫かな。
コンビニのアイスコーヒーの味を味わう余裕なんてなかった。
アイスコーヒーを飲み干して、中の氷を捨て、カップを備え付けのゴミ箱に捨てると、先輩もカップを捨て、一緒にコンビニを出た。
「少し話をしたいから、ちょっと付き合って」
先輩はそう言って、また私の右手を取り、歩き始めた。私は、少し遅れて先輩の斜め後ろをついて歩く。
先輩が歩幅を合わせようと、ゆっくり歩くのに倣い、私もゆっくり歩くと、溜息をつかれてしまった。
「……そんなに並んで歩く嫌か?」
俯いて歩く私に、先輩の表情は見えない。でも、声色からして、怒っている様には聞こえない。
私は、少しの間を置いて頷いた。
「そっか……。
大事な話をしたいから、他人の目につかない所に行きたいんだけど、里美の部屋、行っていいか?」
大事な話って、何? また偽物の彼女の再確認?
「……すみません」
「……部屋に上げるのも、嫌?」
私は、小さく頷いた。先輩は途端に息を飲む。
「……わかった。この先少し歩いたら公園があるから、そこに行こう」
繋がれた手はそのままで、先程と同じく先輩の半歩後ろをついて歩く。
もう、何も期待はしない。
十二年前に傷付いて壊れた心の傷は、癒えるどころか下手したら益々悪化する可能性だってある。
でも……。
傷付くと分かっていても、何故か先輩に惹かれてしまう。
私の気持ちを先輩に気付かれない様に、先程の先輩の問いを咄嗟に否定したけれど……。
これから私が先輩にお願いする事は、まさに『彼氏役を頼みたい』、これだから。
自分から傷付きに行くようなものだ。
先輩に気付かれない様に、小さく溜息をつく。
暫く歩くと、住宅街の一角に、小さな公園が見えてきた。
遊具なんてない。街の緑化推進事業の為に作られたものだ。
花壇と植栽、小さな東屋にベンチが一つ。
先輩はそこに座り、隣に私を座らせる。顔を見ないで済む分、距離が近いので、ドキドキが止まらない。
公園に面した通りは人通りが少なく、きっと邪魔も入らない。
「あのさ……」
「あのっ」
タイミングが重なって、どちらともなく口を閉ざす。
「先輩、お先にどうぞ」
「いや、里美から……、てか呼び方戻ってる」
先輩は、また私の右手を握りしめる。一体どうしたのだろう。
「名前では呼べませんよ」
「なんで?」