心の鍵はここにある
「……本当にお付き合いしている訳ではないじゃないですか。
どうせまた、十二年前みたいに偽物の彼女、なんでしょう?」
私の言葉に、先輩が反応した。握られた右手が痛い。先輩の身体が私の方に向けられ、私の左肩を掴んだ。
「違う。里美は、十二年前から、俺のたった一人の彼女だ」
「違いませんよ。別に偽物の彼女のままで構いません。私もその方がお願いしやすい事がありますので」
私は、先輩の言葉を否定して、敢えて自分がこれ以上傷付かないようにガードを固める。
「里美……。あの時何も告げられず、俺の前から突然消えて、俺がどれだけショックだったか分かるか?」
先輩の言葉が、私の心を掻き乱す。
何で今更……。じゃあ、私の気持ちはどうなの?
貴方の言葉で傷付いて、傍にいるのが辛くて、立ち直れなくて、どんな思いで松山を離れたのか知らない癖に。
「……は、無理」
「ん? 何? 里美、もう一度言って?」
先輩は、私の顔を覗き込みながら尋ねた。
「『里美だけは無理』なんですよね」
「……!! それは……」
「今更何を言われても信用出来ません。でも……。こんな事お願い出来るのは、先輩しか……」
十二年前の感情が込み上げて来た。
私は先輩に悟られたくなくて、背中を見せる。
「……今朝、駅でお会いした女性絡みのニセカノ、ですよね。いいですよ、その話、お受けします。
それと交換条件で、先輩、申し訳ありませんが私の身内にニセカレをお願いします」
私の言葉に、私の手を握った手が反応した。
「昨日、母から電話があった件です。昨日の夕方メールが届いていて……。
今、父方の祖父が松山の病院に入院しているんです。
本人、入院した事でかなり気落ちしてる様で、自分の目の黒いうちに私の花嫁姿が見たいと言い出したとかで、お見合いの話をされました。
流石に私もそれは嫌なので、彼氏がいるって事にしたいんですが……。
その役、引き受けて貰えませんか?」
先輩は、瞠目してる。
そりゃそうだろう。ニセカノから、逆にニセカレの依頼を受けたんだから。しかも、私の家族相手にだから。
「母から来週土曜日に出来れば松山に戻れと連絡があったので、松山へ行って来ます。
その時に、先輩の事、話してもいいですか?」
「……く」
「は?」